第1章〜始まりのハッピーエンド〜
第1話 始まりはふとした瞬間に
暗闇に微かな光を感じて、目を開けた。
すると、俺は見知らぬベットの上にいた。勿論、天井の景色もいつもと違っていた。
「あれ、俺、ベットの上にいる……? 俺は確か電車に轢かれて、死んだはず……。じゃあ、これは……天国か?」
そう独り言を呟いた時にあることに気づいた。
俺の声が違う。
頭の整理が間に合わなくて、とりあえず、右の頬をつねった。
ちゃんと、痛かった。どうやら、現実のようだ。
「俺、生きてる! でも、ここはどこだ……?」
ベットから起き上がり、ベットの右横にある窓から外を見たけど、いつも見ていたビル街はなく、ただただ穏やかな緑の世界が広がっていて、一軒家が3個くらいしか見当たらない。
簡単に表現すると田舎だ。
次に自分の手の大きさを確認したが、電車に轢かれる時の1/2くらいの大きさになっていた。
恐らく年齢としては、十歳くらいになってしまったのだろうとその手の大きさから想像した。
「あー、最近流行ってた転生ってやつなのか? まさか、本当にできるとは……」
実は死ぬ前によく転生モノの漫画を読んでいた。
そのおかげ(?)もあり、状況を理解するのは早かった気がする。
まあ、読んでいた理由は聞かないでほしいが……。
そんなこんな考えていると、下からドタドタと誰かが階段を上ってくる音がする。
「ユウヤ、目を覚ましたのね! 生きててよかった」
見知らぬおばさんはそう言って、ドアを開けるや否や俺を強く抱きしめた。
正直な事を言うと、痛かった。
でも、その痛みを久しく感じていなかったので、悪い気分にはならなかった。
このおばさんは恐らくこの子のお母さんなのだろう。
勝手にほっこりしてる中、ふと我にかえり、お母さんだと思われる人に言われた言葉を改めて思い返した。
そして、俺は信じられない事に気づいてしまった。
なんと、俺は名前が同じ子に転生したみたいなのだ。
「……まあ、いいか。とりあえず、転生できたことに感謝しないと」と俺は名前について気にするのをすぐにやめた。
ーーー
実はこの「ユウヤ」も俺と同じように死のうとしてたらしい。
「10歳前後でなんで死のうと思うんだ?」とふと思ってしまったが、そういう感情に年齢なんか関係ないことは前世で死のうとした俺が1番知っていた。
だから、「ユウヤ」が死のうとした理由について特に気にしない事にした。
だが、この時にこの「ユウヤ」について少しでも関心があればと俺は後々後悔する事になる。
「はい、卵焼いたやつ。確か好きだったよね?」
お母さんはそう言って、スクランブルエッグが盛られたお皿を俺にくれた。これは前の世界でも好きだった食べ物の1つ。
どうやら、この「ユウヤ」と俺は似ているみたいだ。
社会人になってから1人暮らしをずっとしていたので、誰かに料理を作ってもらったのは久しかった。
だからか、誰かに作ってもらったご飯は美味しいなと感激を受けながら、スクランブルエッグを食べていく。
「ありがとう」
俺は至極当たり前な事を言ったつもりだった。
だが、その事がこの「ユウヤ」のお母さんにはかなり感動的な事だったようで、また強く抱きしめられた。
「こっちこそありがとうね。後、本当にごめんね」
「なんで、謝るんだ?」と疑問に感じたが、聞くのは野暮だなと思い、質問しなかった。
そんな食事中に誰かが、家のドアをノックした。
「そうか、この世界にはインターホンがないのか」と前世とのちょっとした違いにカルチャーショックなるものを感じていた中、この「ユウヤ」と同じくらいの年齢の長髪の黒髪の女の子が入ってきた。
「シズカちゃん、いつもありがとうね。実はね、ユウヤが目を覚ましたのよ。シズカちゃんがいつもお見舞いに来てくれたおかげね」
この女の子は「シズカ」というらしい。
「ユウヤ! 意識戻ったんだね! 本当によかった」
シズカはそう言って、俺に抱きついてきた。
「この世界では、デフォでハグするものなのか?」とふと自問した時に、「ユウヤ」の記憶が鮮明になっていった。
その鮮明になった記憶によると、俺が転生したこの少年の名前は「ユウヤ・ヤマダ」と言うらしい。
俺と全く同じ名前と苗字である。
さっきまであまり気にしていなかったが、そこはもっと、デイビスとかかっこいい苗字だったらよかったのにと正直、思ってしまった。
でも、逆に言えば、同姓同名だからこそ、転生できたのかもしれないなと自分自身を無理やり納得させた。
次に俺が転生したこの世界についてだ。
この世界は俺達人間族とは別に魔族という種族がいて、その昔、覇権争いが原因で大きな戦争があったようだ。
その時に人間族が勝ったことで、その種族を超えた戦争は終わり、平和な世界が訪れた。
だが、魔族達はこの過去に納得しておらず、この人間族の覇権を奪おうと襲ってくることがあるらしい。
しかし、どの時代にも人間族には「勇者」と呼ばれる人達が現れ、どんな危機も超えてきたとのことだった。
次にこの「ユウヤ」の年齢についてだ。
ユウヤの年齢は10歳。ちゃんと俺の予想は当たっていたみたいだった。
だが、この10歳という年齢はこの世界ではかなり重要である。
なぜなら、実はこの10歳の時にそれぞれ固有の特殊能力が発現するというのだ。
そして、その特殊能力によって、今後の職業や生き方に大きな影響を及ぼすとのこと。
例えば、今、俺を抱きしめている少女「シズカ・マツリ」の特殊能力は10年に1度発現すると言われている「治療魔法」である。
これはかなりのレア特殊能力で、この「治療魔法」を持っている者は将来「勇者」になれるとも言われている。
つまり、シズカは勇者候補の一人ということだ。
で、問題はこの俺、「ユウヤ・ヤマダ」だ。
なんと驚いた事に「ユウヤ」に特殊能力はないのである。
これは「治癒魔法」より珍しい100年に1度起きるとのことらしいが、こんなに嬉しくないレアなことなんてあるだろうか。
この影響で、村の人から可愛がられていたシズカとは対照的に「ユウヤ」は「かわいそうな子」や何も特殊能力がないことから「忌み子」と陰で呼ばれていたようだ。
記憶を辿れば、辿るほど彼はまさに前世の俺と同じで、何もかもが平均以下。
特殊能力もない。
「神様の野郎。これは勝手に死のうとした分際で生きたいと願った俺への当てつけか?」と思った。
でも、この「ユウヤ」には『救世主になる』という大きな夢があった。
「ユウヤ」の記憶によると、その昔の人間族と魔族との大きな戦争で、魔力量で劣る人間族は負けそうになっていた。
そんな時、ある1人の「救世主」が現れたことで一気に形勢が逆転し、人間族が勝利したという話がある。
「ユウヤ」はその「救世主」のように、皆に危険が迫っている時に助けられるような、皆から尊敬されるような存在になりたかったのだ。
だからこそ、この特殊能力の発現が当時の「ユウヤ」には全てだったのだろう。
だが、残念なことにその望みは絶たれてしまった。
だから、「ユウヤ」は自分の人生と未来に絶望してしまい、自身の命を絶とうとしたのだ。
「前の世界の俺と全く同じだな」と素直に思った。
さて、異世界に来ても俺の置かれている状況はあまり変わっていないみたいだ。
もしかすると、状況は前世よりひどいかもしれない。
でも、前世と違うことはまだ俺が若いのと、少なくとも俺を想ってくれている人がいるという2つの点だ。
加えて、俺は「まだ生きたい」という自分自身の本当の気持ちに気づくことができた。
「俺はこの「ユウヤ・ヤマダ」の夢を叶えてみせる」
そう俺はスクランブルエッグを口一杯に頬張りながら、決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます