私とナツと３０の怪談

8月21日

　私は警察署で１人、ファミレスでの１件について話をさせられた。

　屋見岡を知っているのか、あのファミレスを使ったのは偶然か、何故あのファミレスだったのか。

　昨日は無関係のふりして逃げるつもりだったのに、近くにいたカップルが「あの子に話しかけていました」と警察に証言したせいで、ナツと一緒に居た私も巻き込まれた。

　私は「ナツのストーカー」としか知らないと話した。口裏を合わせる間もない。ナツもストーカーされてる動画があるからそれを見せるだろう。心霊動画だけど。

　最悪なことに未成年という理由で親に連絡された。そのため昨夜は母の荒れ具合がすごかった。母の中では「事件に巻き込まれた娘」は「事件を起こす問題不良」らしい。呪いとは別の超理論だ。何発か叩かれ、スマホも財布も没収された。今日も父の車で警察署まで来ている。終わったらまた、寄り道することなく自宅まで送り戻される。

　警察署を出る前、父はタバコを吸いに行った。帰ったらまた母による私への説教タイム（父親添え）が始まるから先にリフレッシュしているのだろう。車の中でぼんやりと待っていたらコンコンと窓が叩かれた。

「ナツ？」

　身をかがめたナツが手を振っている。私は慌てて窓を開けた。

「や。お巡りさんにハルも親と来るって聞いて張り込んでた」

　ナツは連絡が付かない私を心配してくれていた。

「スマホを財布も取られたんだ。それに見張られてて」

「やっぱりね。住所教えて。迎えに行くよ」

　スマホを突きつけてきたから口頭で住所を言うと検索し、確認する。

「あ、今日は無理かも。説教がいつ終わるか分からない」

「じゃあ、明日の朝方行くよ。4時くらい」

　電車がないじゃないか、と思ったらナツは従兄の家に泊まる気でいるらしい。部屋の位置を確認し、準備が出来たら私が窓を開けることになった。部屋は2階にあるけど屋根と塀を伝えば降りられる。

　ナツが名残惜しそうに去った10秒後に父が帰ってきた。

「なんだこれ？」

　フロントガラスに子供の手形が付いている。一つ二つではなく、ガラス全体にいくつも付いていた。

「いたずらされた？」

　と私に聞いてくるので

「知らない」

　とだけ返事した。

　父はため息をついて再び外に出る。車に準備してあったハンディワイパーで拭いているけど綺麗にならない。

　ふと思い立って内側からなぞってみた。すーっと手形に線が入った。