8月11日

「えーっと、日給は10万円で最終日後にまたこの事務所に来てもらってまとめて現金払いです。日払いはしてません。通勤費は別途払うので、一緒に渡した申請書を書いて明日勤務地の担当者に渡してください」

 机を挟んで作業着を着たおじさんがプリントを見ながら説明してくれている。やっぱり10万円なんだと私は少し身震いした。

「2人は鳥雄くんからの紹介だったかな?」

 作業着のおじさんの隣に座っている、もう1人のポロシャツのおじさんが問いかけてくる。誰のことだろう。ナツの従兄の名前だろうか。ナツを見ると何故か宙をぼーっと見つめて話を聞いてない。私はナツの肩をつついた。

「鳥雄ってアンタの従兄?」

「・・・・・・うん」

 おじさん2人が同時に変な顔をする。これでナツだけ面接に落ちたらどうしよう。

「大丈夫? 2人一緒の勤務地に出来ないけど、1人で仕事できそう?」

「出来ます! ね?」

 ナツの肩を揺すると振り返ってニッと笑った。今日のナツは何か可笑しい。いや、この事務所に来るまではちょっと緊張しているみたいだったけど、普通だったはず。

「えーっと、健康面は大丈夫? 手荒れとか気にする?」

「大丈夫です! ・・・・・・手荒れするんですか?」

「そうそう、言ってなかったね。洗濯してもらうの」

 作業着のおじさんが両拳を擦るような仕草をして見せる。

「手洗いなんですか?」

「そうそう、大変だよー」

 洗濯機を使わないならつらい仕事だろうけど、それでも10万円は高い気がする。

 一応、ナツも問題なく面接を通ったみたいだけど、事務所を出てから苦言を呈した。

「なんでぼーっとしてるの? 寝不足? 面接落ちたらどうするのよ」

 ナツは困ったような顔で

「痛くてさぁ」

 と呟いた。

「何?」

「面接の間、足首ずっと握られてて、痛かったんだよね」

 ナツは屈んで綿パンの裾を引き上げた。足首を掴むような、手の形をした赤黒い痣がくっきりと付いていた。両方の足首にそれはあった。

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