8月2日

 中学生の幹人が夏期講習に行っている間に、私は父と母に呼び出されて居間にいた。幹人は私が共有スペースにいるのを酷く嫌がるからだ。

「ちょうど、近くの公立高校に欠員があったから、願書出しておいたわよ。17日に試験があるから準備しておきなさい」

 母がテーブルに高校のパンフレットと募集要項のプリントを広げ事務的に言う。父は添え物だ。

 近くの公立高校はあまり評判が良くない。お婆ちゃんの家から通っていた前の高校は男子も女子もおっとりしていて過ごしやすかった。夏都みたいな変な子だって皆おっとり受け流すような環境だ。

「私、前の高校の方が良いな。転校しないでお婆ちゃんの家で元の暮らしに戻っちゃダメなの?」

 ダメ元で、ずっと考えていたことを口に出してみる。母はため息をつき、父は目も合わせない。返事はない。ダメって事なんだろう。

 話は終わったとばかりに母は立ち上がってキッチンで夕食を作り始めた。父はそれを見送ってから仕事部屋に帰っていった。私も2階の自分の部屋に戻る。

 夏都からメッセージが来ていた。

『写真にも写った』

 何のことだと画像を開いたら、夏都の自撮りだった。背後は本棚や襖があり、夏都の自室のようだ。そこに白い霧のような物が映っていた。人の腰から上が夏都に手を伸ばしているようだ。顔のあたりには灰色の点が3つあり目と口に見えないこともない。

 私は既読だけ付けてスマホの電源を切った。

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