side 美来 蓮水と杏里

「……そうか、遊びに来てたのか。……ごめんね、邪魔して」

「いや……そんな」

 杏里がぽそっと口を挟む。……さっきから顔が青いままで、何だか心配になってくる。

 そして、蓮水は――私の秘密を知っているもうひとりの人間だ。

 一気に緊張してくる。なぜこうもよりによってこの三人が集まってしまったのか。

 私達は今、食料品売場を回っている。どうやら蓮水は日用品を買いに来たらしく、その道中に私と杏里に出会ったそうだ。

「もしかして、二人が集まったのは<アリス>についてだったりする?」

「え」

 突然、杏里は足を止めてしまう。

「あー……」

 私は額に手を当てる。このタイミングで――

「……あのね、杏里……蓮水は、私が神様ってことを知ってるんですよ」

 このタイミングで、それを言うか。

「はっ……ええ⁉」

 案の定杏里は声を上げる。

「でも蓮水、<アリス>のことなんてどこで」

 ふっと気になって、私はカートを押す蓮水に尋ねた。杏里の歩き方は随分とぎこちなくなってしまって、こちらまでやっぱり心配になる。

「……仕方ないよ。僕はあの世界の住人とは知り合いにならざるを得なかったから」

 自嘲気味の口調で蓮水はそう言う。

「またそうやってはぐらかす……」

 果物売り場からレモンをかごに入れる蓮水をみやり、私は軽い不安をおぼえる。

「神木さんも、多分同じだよ」

 何も言葉を返せなかった。冷凍食品売り場へ向かう蓮水について行くしかできない。

「そういえば、島田さんも知ってるんだよね?アリスのこと」

 杏里が私の隣でびくりと震える。目線は下げられたまま。冷房の効いた室内で汗が滴る。

 ――怖がっている?

「ちょっと、蓮水」

「島田さんは、”異世界”――鏡の中に入れる」

「……そうだけど。なにか関係ある?」

 杏里がつっけんどんに言い返す。

 私も思わず目を瞠った。――どうして、蓮水がそのことを知っているのか。

 確か蓮水は、杏里を警戒していた。杏里も蓮水を見た途端に顔を青くしている――二人の間には、何かあるのか。私の知り得ないことが。

 少し黙っていた蓮水が、こちらを見ずに口を開く。

「……多少。島田さん自体、二つの世界を繋げる唯一の風穴だから」

 ――じきに分かる。

 そんな声が聞こえた気がして、私は思わず杏里を見詰めた。

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