花が彩る星月夜
輝響 ライト
瞬く光の爆発と、
授業終わりの教室、幼馴染の
委員会の居残りで、明日までに学校の足りていない備品を、提出しなければいけないのだ。
「彩華、そっちどう?」
「うーん、そろそろ終わるかな」
毎月繰り返されるこの会話。一年に引き続き二年もこの委員会をやっているので、もう10回は繰り返している。
作業に戻ったが、風を感じて僕の左隣の席に座る、彩華の方をちらりと見る。
開いた窓から差し込む夕焼けの茜色が、きれいな彩華の黒髪を照らし、穏やかな風がなびかせていた。
◇◇◇
僕の家は、花火師の家系だった。
花火の名前から取られた牡丹という僕の名前は、その花火の形から、芯のある強い子に育ってほしい、そんな願いが込められているそうだ。
しかし、牡丹で花火をイメージする人は少数。いままでも、女の子の名前みたいな扱われ方をして来た。
そんな家で生まれた僕の、唯一の幼馴染が彩華だった。
彩華の両親は近所でも有名な魚屋で、主に近くの海で打ち上げを行っている祖父達と、とても仲が良かった。
その関係で知り合い、物心ついたときから二人で遊んでいたのだ。
そんなある日、二人で花火を見てみたくなり、入るなと言われていた作業所に入ったときの事。
僕が、祖父の作っていた大玉の花火に気が付き、彩華の手を離したその時だった。
彩華がうっかり転んでしまい、偶然置かれていた可燃性の物やら火薬やらを押し倒し、火がついてしまった。
火薬庫や花火までは燃え移らず、最悪の事態は避けられたが、そのせいで彩華は大火傷を負ってしまった。
顔だけじゃなく、腕などにも火傷痕が残っており、それを気にしているのか水泳の授業の時はいつも休んでいる。
その火事のことを、僕は今まで忘れることはなく、ずっと後悔し続けている。
◇◇◇
「牡丹、終わったよ? おーい」
纏めた紙を僕の目の前でヒラヒラとさせながら、こちらを覗き込む彩華と目が合う。
「ごめんごめん、ありがとう」
担当分の備品チェックのメモを済ませ、委員会に提出し帰路についた。
◇◇◇
「六月ももう終わりが見えてきたね、あと一ヶ月もすれば夏休みか~」
「そうだね、今年もこの時期がやって来たよ」
帰り道、家が近いので昔からずっと一緒に帰っていて、いつものように雑談をしながらの帰路だ。
「そうか、花火の準備、忙しいんでしょ?」
「うん、みんな頑張って作ってるよ」
「夏といえば菊川の花火。お父さんもそう言ってたし、毎年見てても飽きないよ」
花火の老舗である我が家、菊川家は知る人ぞ知る花火屋として、全国…とまでは行かないがそれなりの知名度を誇っている。
そんな家に生まれたが、花火を作るにも資格というものが必要なのだ。
火薬を扱うための資格がないと作ることが出来ない。
そのため僕は、裏方の作業ばかりを行っていた。そう、去年までは。
「実は、最近作るために必要な資格を取ったんだ」
「ってことは……」
そう、これで今年の花火から、僕が作った花火を打ち上げることが出来るのだ。
「うん、まだ不慣れだけど見よう見まねでやってるよ」
「そっか~!」
「それで、話があって……」
意を決して、最近考えていたことを話そうと立ち止まる。
「どうしたの? そんなに改まって」
「今年も、僕と花火を見てほしい」
ただそれだけ、毎年言わなくても一緒に見ている花火だったが、今年ばかりはこれを言わなければいけなかった。
「当たり前でしょ? 毎年見てるんだから」
「それで……僕の作った花火を見てほしい」
この言葉を、言うために。僕は頑張って資格を取ったと言っても過言ではない。
花火と共に僕の思いを伝えようと昔から考えていたからだった。
「もちろんいいよ、たのしみだなぁ」
そう、僕に微笑みかける君の顔が、とても眩しく見えた。
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