無意味な時間

小一時間後、尋問は大した進展を見せずに所定時刻となり、終了する。


「お疲れ様です、ゼノ三等官」ドアを開けてくれた看守の人が敬礼しながら言う。


(結局何も掴めなかったな……)


そんな事を思って収容区画の廊下を歩いているとユビキタスとばったり出会う。


「お……ゼノ、尋問終わったのか」


「ユビキタスさん!終わりました」


(あれ、尋問の事知ってるんだ……)


「どうだった?」ユビキタスは面白そうに聞いてくる。


(この人は絶対分かって聞いてるでしょ……)


ゼノは不満げな表情で口を開く。


「全然ダメですよ……途中からフォルスの様子がおかしくなって」


「ほう……詳しく」


ゼノは取り調べの最中に起きたことを詳細に話す。ユビキタスは静かに一部始終の話を聞くと大きなため息を吐いてから口を開く。


「面倒臭い事になりそうな気がしてきたな……」


「え?面倒臭い事って?」


ゼノがそう尋ねるとユビキタスは少し間を置いてから答える。


「……内通者に関する情報、或いはディヴェデの本部の所在がこの資料に隠されているかもしれない」


「!?、それってどういう……」


ゼノが詰め寄るとユビキタスは真剣な表情を浮かべる。


「ここからは俺達の仕事だ……お前はよくやってくれた」


そんなやり取りをしていると看守の一人がユビキタスに話しかける。


「お取り込み中失礼します、ユビキタス二等官。トゥリアヌム看守長がお待ちです」


「分かった」そう言うとユビキタスはゼノの肩に手を置いて続ける。


「それと、お前はこの件から降りろ」


「え!?でも……」


(テラさんの名前を出す訳には行かないし……)


ユビキタスはそんなゼノを見て大きくため息を吐く。


「……大丈夫だ"あの人"には俺から話を通しておく、安心してろ」


「え……!?はい!」


(ユビキタスさんは『あの人』が誰なのか知ってるのか?)そんな事を考えながらゼノは収容区画を出る。


「……ったく、面倒臭い事になってきたな……」


そう呟くとユビキタスは看守長室の扉を叩く。


「入るぞ、トゥリアヌム」


扉を開けると中にはピンク髪と同じ色のケモ耳の後ろ姿が見えた、その瞬間ケモ耳をピクっとさせて椅子を回して飴を頬張ったトゥリアヌムがこちらを向く。


「遅いじゃーん!……あれ?その服新しいやつ?」


彼女はそう言うと嬉しそうに椅子をクルッと半回転させて椅子から降りると尻尾と看守長の証である羽織ったコートを揺らしながらテーブルを周り込んでこちらにやってくる。


「いや、前あった時と同じだと思うが」


「嘘ー……ちょっと服見ていい?」


そう言う彼女の目はキラキラ輝いており、手には様々な色の飴が握られている。


(コイツ……本当に看守長だよな?)


ユビキタスがそんな事を考えているとトゥリアヌムは嬉しそうにはしゃぎ出す。


「わーい!やっぱ前と違うじゃーん!ベ・ル・トが!何?アルちゃんからの貰いもん?」


「そんなことは今は良いだろう、それで要件は?」


トゥリアヌムは飴の棒をくわえたままピタリと止まり、先程とは打って変わって静かな口調で話し出す。


「……君だろ、あの尋問の指示出したの」


そう言ってトゥリアヌムはユビキタスに飴を渡す。


「なんでそう思うんだ?」ユビキタスがそれをくわえるとトゥリアヌムは椅子に戻り、深く腰掛ける。


「ボクの眼は誤魔化せないよ〜、じゃなきゃ看守長なんてやってられないからね」


(変な所で勘がいいのはシエナにソックリだな、獣人特有の勘なのか……?)


そんな事を思いながらユビキタスは飴をガリガリと噛み砕く。


「さて、ここからが本題なんだけど」そう言ってトゥリアヌムはテーブルに資料を投げ出す。


「……これは?」


ユビキタスがその資料に目を通すとトゥリアヌムは続ける。


「ちょっと……不味いことになったんだよね〜」


そう言う彼女の表情は明らかに曇っているがどこか楽しそうだった。


「何がだ?」


ユビキタスがそう尋ねるとトゥリアヌムはニヤリと笑う。


「最高司令官が来て、ね」


それを聞いた瞬間、ユビキタスは目を見開く。


「最高司令官が来たのか!?」


トゥリアヌムは笑いながら言葉を続ける。


「うん、ゼノ君の来る前かな〜唐突にね」


「一体何を考えているんだ?アイツは」


ユビキタスがそう言うとトゥリアヌムはゆっくりと息を吐く。


「分からない、けどフォルスはこれまで無いほどにビビってたよ」


(俺の知らない所で一体何が起きているんだ……)


ユビキタスがそんな事を考えているとトゥリアヌムが椅子から飛び降りる。


「これ機密情報ね!」そう言うと彼女は親指をグッと立てウインクする。


「そうだな」


そんな素っ気ないユビキタスの返事にトゥリアヌムはつまらなさそうに机に戻ると、飴を一つ手に取り口に入れる。


「……それにしても新人尋問官君も厄介な事に首を突っ込んだね〜」


「そうだな、新人には少し荷が重かったな」


「まー、ユビキタス君がついてるなら大丈夫でしょ!んじゃ、帰っていいよ」


(何が大丈夫なのか分からんが……)


そんな事を考えながらユビキタスは看守長室を後にする。

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