サルベージ

『カンパーイ!!!』


冒険者ギルドでサランとゼノ、スイッチがグラスをぶつけ合う。


「こんなパーティーを開いてくれるなんて……」


サランは得意げな顔をしながらゼノに言う。


「とーぜん!だって、"旅立ちの儀"よ?」


サランはそう言うと料理を皿に盛り付け始める。


「旅立ちの、儀?」


ゼノがそう言うとスイッチが言う。


「冒険者の安全と帰還を祈る宴だな、ここら辺だと有名だぞ?」


「へ、へぇー」


(スイッチさんがフォローを入れてくれた……)


「ほら!ゼノももっと食べて!」


サランが差し出した肉料理を頬張る


「美味しい!」


ゼノはそう言うと皿から目線をサランにうつす。


「この先も、頑張ってね!」


そう言って微笑む彼女は美しく、その中には熱い思いが流れているだろう。


「勿論です!」


ゼノとサランは顔を見合わせると笑い合う。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、あっという間に翌朝になった。


ゼノとスイッチは持っていく荷物もないので旅立ちの準備は直ぐに終わった。


二人が街の門の前に向かう途中で領主が城門までの見送りに来てくれた。


「それで、2人はどちらまで行かれるのです?」


領主は2人に言う。


「魔法大国ノイズへと行こうと思っています」


「そうですか。最近は魔王軍の動きが活発ですので何卒、お気を付けて下さいね」


領主はそう言うと小包を取り出す。


「遅くなって申し訳ありません。これは助けて頂いたお礼です」


「ありがとうございます」


スイッチが小包を受け取ると領主に礼を告げる。


「では、そろそろ門ですな……」


領主がそう言うと、サランが一瞬悲しそうな顔をするが直ぐに笑顔になる。


ゼノとスイッチが門の境を超えて振り返る。


「では、お気をつけて」


領主がそう言うと、サランがゼノに何かを差し出す。


「これは……革のマント?」


それは右肩に白い羽の着いた全体的に丸みのある茶色のマントだった。


ファンタジー世界の装備という感じがする逸品だ


「破れたりしたら、私が直しますからね。いつでも戻ってきてください」


サランは笑顔のような顔でそう言う。


「もちろん、大切に使ってくださいね!」


「もちろんです!」


それを身につけると、サイズは少し大きかった。


「では……またね」


「……はい!また会いましょう!」


歩き出してしばらくして後ろを振り返ると領主とサランが見えなくなるまで手を振っていて、振り返す。


ゼノは街が見えなくなるとスイッチに言う。


「綺麗な街でしたね」


「……ああ、そうだな」


「所で…ノイズまでどれくらいですか?」


「バカ、あれは嘘だ」


ゼノはスイッチの返事に少し固まる。


「ま、まあそうですよねー……」


(魔法大国…行ってみたかった)


スイッチは端末を見ながら森の中を進んで行く。


「ここら辺だな」


スイッチがそう言うとゼノは辺りを見渡し始める。


辺りは鬱蒼とした森で鳥の声がうるさいくらいだった。


(人気は全くないな……)


「後は時間まで待つだけだ」


スイッチはそういうと地面に腰を下ろす。


「あのー……そういえば」


「ん?」


「フォルスはどうしたんですか?」


「あぁ」


スイッチは腰についている黒い箱を見せる。


「この中に閉じ込めてる」


ゼノが不思議そうにしているとスイッチが言う。


「ほら、お前も座っていいぞ」


(というか座れ)


そんな思いが籠った言葉を無下にも出来ずに、ゼノは箱を見つめる。


「これは一体……?」


「どっかの世界の生物を閉じ込めるボールを参考に作った簡易牢屋だ、意識が無いと中に仕舞えないがな」


「じゃあこの中に?」


ゼノは箱を持ち上げてみるが、中身は空っぽのように軽かった。


「そうだ、暴れられても困るし、結果オーライだな」


ゼノは適当に腰をかけるとスイッチに話しかける。


「あ、あの」


「何だ?」


「……これからどうやって本部にに行くんですか?『門』も無いし……」


「お前、教育課程で非常用のマニュアルとか読まなかったのか?」


スイッチはため息を着くと説明を始める。


今から行うのはサルベージと呼ばれる臨時の帰還方法であり、『狭間』を安全に抜けるルートを記録している『鍵』が使用不能時に使う手段らしい。


簡単に言うと穴に落ちた人に地上からロープを下ろすのと同じような事らしい。


そして、今はそのロープの役割を果たすビーコンがOCOから来るのを待っているそうだ。


「所で、ユビキタスの部署はどうだ?楽しいか?」


スイッチは端末に目を向けながら質問する。


「入ってまだすぐなので何とも……でも、ユビキタスさんはとてもいい人ですよ!娘さんの事を大切にしてますし……」


「はぁ……まだアルの事を」


スイッチの呆れ顔に慌ててゼノは言う


「いえ、実は試験で……」


ゼノは試験での事件をスイッチに事細かに話す


「あの親バカが……同期が迷惑かけたな」


スイッチが少し申し訳なさそうに言う


「あ、いえ。そのお陰で色々といい事も合ったので……」


「はは、あいつもお前みたいなのが部下だと飽きなさそうだな」


(嫌味かな!?)


ゼノは心の中で叫ぶ、まあ。色々と迷惑をかけているしスイッチの中では全体的にはあまりいい心象では無いのかもしれない。もしくは皮肉屋なだけか。


「他に聞きたいことは?どーせ暇だ答えてやる」


端末で何かを確認しながらスイッチはそう言う


「え、えーと……スイッチさんの部署はどんな所なんですか?よく知らないんですよね……」


「……『中央司令部』か?うーん」


スイッチは端末から目線を上げる。


「まあ、名前の通りOCOの中枢機関だ。そんでもって俺の仕事は主に現地調査だな」


「現地調査?」


ゼノは首を傾げる。


「まあ、いわゆる何でも屋だよ、お前達異動部ほどひどくはないけどな」


(な、なんか聞いてはいけないことを……)


ゼノがそう思っているとスイッチが言う。


「よし、来るな」

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