潜入領主邸

その日の夜。


ゼノとスイッチは領主の屋敷が見える郊外の岩裏に身を隠していた。


屋敷の方を見ると、使用人たちも既に寝静まっているようで、灯りのついている部屋はない。


「……ゼノ、準備は出来ているか?」


「はい!」


「よし行くぞ『バインド』」


2人はバインドを使い塀を乗り越えて敷地内に潜入する。


「スイッチさん、これ凄い便利です!」


ゼノは興奮気味に言う。


「落ち着け、騒ぐと見つかる」


「すみません、つい……」


スイッチは辺りを警戒しながら進む。


「サランの部屋がかる建物までは少し距離がある、まずはそこを目指し、そっからはお前1人だ」


「了解です」


「よし、行くぞ」


2人が闇に紛れて歩いていると、突然スイッチがゼノの肩を掴む。


「止まれ、ゼノ」


「何かあったんです……ッ!」


ゼノの足元に紐のようなものが張り巡らされていた。


「防犯用魔法って所だな、引っかかると爆音が鳴るんだろう」「これくらいなら石とかで断ち切れ……」


ゼノは魔法を絶とうとするがスイッチが、その手を止める。


「待て、罠だ」


「罠……?」


「魔法を切った瞬間、恐らく別の探知魔法が反応して警備兵が来る」


「じゃあどうすれば……」


「こういう時は……我々が異世界人である事を利用する」


スイッチはそう言うと魔法に触れる。


「ちょっ!?何してるんです!!」


「『オフ』」


その瞬間、爆音が鳴り響くと思われたが、何も起きず、魔法も消えていた。


「これで大丈夫だ、この方法なら解除しても問題ない」


「なにをしたんです……?」


「俺の能力だ、触れた物を作動させたり停止させたりする事が出来る」


スイッチはそう言うと、再び進み始める。


「なるほど、便利ですね」


「そうでもない……よし、着いたぞ」


スイッチが上を指を指すと、そこには建物から突き出ているベランダがあり、あかりが漏れていた。


「あそこがサランの部屋だ、頼んだぞ」


「分かりました」


ゼノは覚悟を決めると、バインドの縄を伸ばし、ベランダの手すりに巻き付ける。


「気をつけろよ」


スイッチがそう言うとゼノは「はい」と答えてゆっくりと登っていき、ゼノはサランの部屋のベランダへとたどり着く。


部屋の中はカーテンで見えないが何かゴソゴソと物音がする。


ゼノは嫌な予感がし、素早くカーテンをめくる。


すると、そこには荷物をカバンに詰めるサランが居た。


「サランさん!」


サランはその声に驚き振り返る。


「ゼノ!!」


その声と同時にサランはゼノに抱きついていた。


「どうしてここに……?」


「サランさんをもう一度冒険へ連れ出したくて、」


「でもどうやってここまで……」


「実は……」


ゼノはスイッチの事や今までの出来事を話した。


「そうだったんだね……ありがとう」


「いえ、それよりも早く逃げましょう!ここは危険です」


「……ゼノ、今度は何が起きようとしてるの?」


ゼノは言葉に詰まる。


ここで真実を話すべきなのか、それともこの場を乗り切る嘘をつくべきか。


「お願いだから本当の事を言って」


「……わかりました、でも落ち着いて聞いてください。サランさんのお父さんが暗殺ギルドに狙われてます」


「そんな……!?一体誰が……」


「分かりません。今は逃げる事が先決です」


「……お父様を見殺しには出来ない」


「サランさん……」


「私が護る」


サランはそう言うと寝巻きを床に落とす。


「サランさッ!???」


サランの体には下着しか身につけていなかった。


ゼノは慌てて目を逸らす。


サランはゼノの様子など目もくれず、一気に着替え鎧を装着すると、部屋の壁に丁寧に鎮座する大剣に触れる。


「……いってきます」


そう呟くと大剣を持ち上げ腰の鞘に収める。


「ゼノ。行くよ」


そう言うとサランは扉を開き、走り出す。


ゼノは慌てて後を追う。


「サランさん!ダメです!!」


「離して!」


ゼノはサランの腕を掴み、何とか止めようとする。


「あなたが死んでしまうと……!」


ゼノは言いかけた言葉を途中で止める。


何故なら、彼女の瞳からは涙が溢れ出していたからだ。


「……誰かがケガするのはもうイヤなの!!」


サランはそう叫ぶとゼノを振り払い、廊下を走り抜ける。


その時、ゼノの脳裏をスイッチの言葉が過ぎる。『まだ、決まったわけじゃない』


ゼノは意を決してサランの後を追いかける。


「待って下さい!」


ゼノはサランに追いつくと、再び腕を掴む。


「ゼノ!!!」


サランは再びゼノの手を振り払おうとする


「僕も、一緒に行きます!」


ゼノはサランの目を見てハッキリと言う

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