スキル


翌日、ゼノは朝早くから宿を出て冒険者ギルドへと向かう。


道中、昨日の事を何度も思い返す。


自分がした事で、誰かの人生を大きく変えてしまうなんて。


「僕は、なんて事を……」


ゼノは昨日からずっと悩み続けていた。


歩きながら空を見ると、太陽はまだ登り始めたばかりで街を明るく照らしていた。


ゼノは街の中央通りを歩いて行くと、この街の中央である噴水があり、その周りにはベンチが置かれていた。


「はぁ……」


ゼノは噴水の前にあるベンチに座り込む。


「うーん、やっぱり……サランさんに会うしかないか」


ゼノは決意を固めると立ち上がり、冒険者ギルドへと歩を進める。


冒険者ギルドに着くとボロボロに汚れたマントを羽織ったスイッチが立っていた。


「スイッチさん!?どうしたんですかその格好……」


「気にするな」


スイッチはそれだけ言うと受付の方へ歩いて行く。


ゼノもそれについて行き、2人はカウンターに並ぶ。


数分後、ゼノたちの順番が来る。


「いらっしゃいま……せ」


受付嬢はスイッチの顔を見ると一瞬固まるがすぐに営業スマイルを浮かべる。


「ご用件は何でしょう?」


「コイツの冒険者登録を頼む」


彼はそう言うと金貨の入った小袋を机の上に出す


「はい、かしこまりました」


受付嬢は金を受け取ると笑顔で対応する。


「では、こちらの水晶に手を置いて下さい」そう言うと、目の前に台座に置かれた透明な石がセットされた木製の機械を指さす。


「これは?」


「これは、魔道具で、触れたものをスキャンし、ステータスをカードに記録する事が出来るのです」


「なるほど……」


ゼノは恐る恐る手をかざすと、淡い光が放たれゼノの手を包み込むと、機械がキシキシと音を立ててレーザーカッターの様に下にセットされたカードに印字されていく。


「おぉ……!」


「終わりましたね、ええと……。筋力、魔力に器用度、敏捷性は平均ですね……あら、幸運と生命力がかなり高いようです」


「そうなんですか?あまり実感がないけど……」


ゼノは自分のカードをまじまじと見る。


「冒険者は危険を伴う仕事が多いので、生命力は高めの方が向いていますよ」


受付嬢はそう言って微笑むとゼノに最終確認する。


「では、職業は冒険者で大丈夫ですね?」


「はい、お願いします」


「承りました、では、この冒険者カードを無くさないように注意して下さい」


そう言うと、受付嬢はカードを手渡す。


「ありがとうございます」


「ありがとう。ご苦労さま」


スイッチとゼノは頭を下げる。


「またのお越しをお待ちしております」


2人が冒険者ギルドを出ると、スイッチは口を開く。


「よし、これで準備は整ったな……今からお前に"スキル"を教える」


「スキル、ですか?」


「あぁ、この世界における魔法みたいなもんだ。俺が教えたらさっきのカードに項目が出るからそこを押すんだ、分かったか?」


「はい!分かりました」


スイッチはゼノの反応を見ると、1呼吸置いて話を続ける。


「今からお前に教えるのは『バインド』」


そう言うとスイッチの手から黒い縄の様なエネルギー体が現れる。


「これが、バインドの効果だ」


スイッチはその黒い縄を近くの木に巻き付け、ピンと張る。


「すごい……」


「この世界の"スキル"…魔法みたいなもんだ」


その言葉と共に彼の黒い綱は手の中に引き込まれる用に消える。


「やり方は簡単、手を前に出してバインドと唱えればいい」


彼はそう言うとゼノのカードを取り出すように促す。


ゼノのカードには『バインド』の項目が現れていた。


それに触れると一瞬光に包まれ、手の中にその光は集約されて行く。


「おお……!」


ゼノは感嘆の声を上げる。


「習得完了だな。やってみろ」


スイッチに言われるままゼノは手を伸ばしてみる。


「『バインド』」


その瞬間、手から黒い縄状のエネルギーが現れ、近くにあった木の幹に絡みつく。


「わっ!!」


ゼノその勢いと初めての感覚に驚きながらも、自分の手に出現したバインドを見つめる。


「バインドは対象を捕縛するだけじゃない、高台に登る時などもロープとして使える便利なスキルだ。使い方はお前次第って訳だ」


「なるほど……」


ゼノは納得しながら感覚でバインドを消す。


「今夜お前はそのスキルを使って今夜、領主邸へ侵入しろ」


「ええっ!?」


「心配するな、バックアップはする」


「いや、でも……」


「いいか、僕はこの世界の流れを修正する為なら何でもやるつもりだ、何故かわかるか?」


「…………世界が崩壊するからです」


「そうだ、それは必ず避けなくてはならない」


スイッチの言葉には重みがあった。


「いいか、この任務は緊急事態の今、僕と君でやらないといけない。頼む」


彼はそう言うとゼノに頭を下げる。


「わかりました……やりましょう」


「ありがとう」


「それでどうやって……」


ゼノが言いかけたところでスイッチが遮る。


「……待て、誰か来る」

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