てるてる坊主はつらいよ

砂藪

第1話 照る照る坊主

 てるてる坊主。

 ティッシュで作られるお手軽な晴天祈願。


 そんな彼らには、こんな話はまことしやかに語られている。てるてる坊主の元となったのは、実際の坊主。


 あのところに、雨が降り続けて止まなくて困っている人々がいた。


 そこに坊主がやってくると「自分がお経を唱えて、雨を止ませよう」と宣言した。人々はその坊主の言葉を信じて、坊主のお経を待った。


 しかし、坊主がお経を繰り返しても、雨は止まなかった。


 嘘つきだ。嘘つきだ。


 人々が怒りに任せ、坊主を殺してしまうと、その頭に布を被せて吊るし上げた。

 すると、不思議なことに、あれだけ続いていた雨が翌日止んで、雲一つない空が広がっていた。



 少し前までは、物騒だ物騒だ、そういえば、てるてる坊主が題材の歌も何番の歌詞が不気味だなんだと言われていたのは記憶に新しい。いや、もう古いのかもしれない。


 今は誰もてるてる坊主なんて作らないだろう。


 丸めたティッシュに、さらにティッシュを一枚か二枚被せて、輪ゴムで首を絞めるようにきゅっと留める。丸い頭に好きに顔を描いて、完成……そんなことをしなくても、雨は降るし、いつ晴れるかもだいたい分かる。パーセンテージで表現される降るか降らないかの予想が簡単な日常。


 私だって、てるてる坊主を作ったのは幼稚園の工作の時間くらいだった。


 今日も雨が降っている。明日も雨らしい。

 そんな梅雨の日のことだった。


「坊主が私の部屋にいるんだけど⁉」


 窓際に悲し気な顔をしている笠を被った坊主が立っている。私の部屋の珍妙な侵入者に驚いて、私は驚きの声をあげた。

 それなのに、ただならぬ私の声に集まった両親も六歳の弟にも坊主は見えないらしい。

 なにもないじゃん、と両親と弟が部屋を出ると坊主がへの字に曲げていた口を開いた。


「拙僧、照る照る坊主と申す」

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