第8話

 あれこれと自分なりに考えてみたら色んなことが腑に落ちた。考え込んでいる私の様子を見ていた母は、

「周りの人達から、面白おかしく言われる前に私が話そうと思ったのだけれど、遅かったかしら?」

と気遣ってくれた。

「大丈夫……うん、大丈夫だから…心配しないで…」

と答えたものの、母に小手先のごまかしが通用するはずがなかった。

「どうやら、もう嫌な思いをしていたようね。」

答えに困っている私に母は言った。

「言いたくないことは無理に言わなくてもいいわ。それより、まず、私の話しを聞いてもらえるかしら?」

 黙って頷いた私に母は話し始めた。

「昔の女の人は、一度結婚したら、簡単に自分の生まれた家に帰れなかったのですよ。だから、頼りになる夫に先立たれて、おばあ様はさぞかしお辛かったのだと思います。幼子を残して命を絶つことを無責任だとか、母親として失格だとか言う人もいるけれど、私は、安易に人を非難するのは間違っていると思います。もし、おばあ様の、他人の中に一人取り残された心細さをわかって差し上げる人がいたら、違う結果になったかもしれないと思うのですよ。」

 しばらく、母は涙ぐんでいた。

「ご両親を失った後、お父さんは大変なご苦労をされたのです。昔は大家族ですから、お父さんのおじい様、おばあ様達で残された子供達をお育てになりました。お父さんは頭がよく、勉強がおできになったのだけれど、大学への進学はあきらめられたのです。高校を卒業して、働きながら、妹さんの面倒をみておられて……確か、そのころにお父さんのおじい様とおばあ様が相次いで亡くなっておられます。妹さんが高校卒業後、就職をされ、職場で知り合った方と結婚されるのを見届けているうちに、ご自分の結婚が遅くなられたの。私も、そういうところは、お父さんと境遇が似ているのですよ。私の場合は、弟の面倒をみていたのだけれど。」

母が恥ずかしそうに笑った。

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