南天の実

簪ぴあの

第1話

 父は気難しい人だった。一緒にいると息がつまった。家族の団欒など、私の家には存在しなかった。

「うちのお父さんもそうだよ。いつも、ぶすっとしてるよ。」

「お父さんはとにかく威張っているよ。」

友人達は口々に慰めてくれるが、私は、父が苦手、いや、嫌いだった。

 母は父より八歳年上で、お能の家元の娘だと知った時は驚いた。実家は高級住宅地にあり、お嬢様学校として有名な女子大を卒業したのである。そんな母が、公務員とはいえ、高卒で、自衛隊の事務職の父と、なぜか縁があって結婚したのだ。私は父と結婚した理由を何度もたずねたのだが、母は笑いながら、

「ご縁があったのよ。」

と繰り返した。

 私は田舎育ちである。友達の家はほとんどが祖父母世代と同居していた。私の家は、すでに父方の祖父母は他界していたから両親と私の三人家族。友人達は口々に私の家庭環境を羨ましがった。

 圧倒的に父方の祖父母との同居が多い地域だったから、自分の母親と祖母が嫁と姑の関係になる。友人達は自分の母親と祖母の間で気苦労をしていた。

 おばあちゃんが作ったおかずもお母さんのおかずも同じだけ食べるとか、お母さんが買ってくれたマフラーとおばあちゃんが編んだマフラーを日替わりで身につけるとか、大人の知らないところで、家庭内の円満な人間関係のため、子供ながら気を遣っていたのだ。

 それに比べたら、父が気難しいことぐらい辛抱しなくてはいけない、学校から帰ってからしばらくは母とおしゃべりをして、楽しい時間を過ごしているのだからと自分を慰めたものだ。ただ、父が帰宅すると雰囲気がガラリと変わってしまうのだ。

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