追放された者は破滅しかないのか?

@masaki213856

第1話

「どうしてこんなことに・・・?」


王都の街中、今宵は雨が激しく降る夜だった

時刻は日付が変わる間際

人々が眠りに就く夜の街中、雨に濡れながら顔色を絶望に染める青年がいた。


彼がなぜこんな状況に置かれているのか?


時は数刻前に遡る


★★★


「ゼクス。今日をもってお前をSランクパーティー蒼き稲妻から追放する」

「は?」


賑やかな冒険者ギルドの酒場にその宣言は響いた


「マルス、今なんて?」

「ち、雑魚はこれだから嫌になる。いいか?俺たちはSランクにまでなった。その理由は俺の剣技とリーシャの魔法、カガリの索敵と弓術があってこそだ。ゼクス対するお前にはなにがある?お前にあるのは役にもたたない付与魔法と俺には遠く及ばない剣術だけ、どう見ても俺たち蒼き稲妻に相応しくない」

「そんな・・・」


マルスの言葉に沈痛な顔をするゼクス

マルスはそんなゼクスを見て優越感に浸る。すると彼の両隣から同じパーティーメンバーである二人からも同意する声が上がった。


「ようやくですか、待ちくたびれました。私も賛成です。」

「ホントだよね、僕も前からずっと思ってたんだよ。相応しくないって」


二人の言葉にさらに傷つくゼクス、マルスとはランクが上がるたびに関係がうまくいかなくなってきてはいたがこの二人との関係は良好だと思っていたからだ。

そんな二人からの言葉にさらに傷つくゼクス・・

そんなゼクスの姿を見てさらに気分を良くしたマルスは二人に問いかける


「やはり二人も同じ考えだったのか?」

「当然ですわ。この蒼き稲妻はSランクなのですよ?冒険者の頂点とあるべパーティーに相応しくない人間がいることを私は我慢できません」

「リーシャの言う通りだよね。僕としては自分で気づいてくれるのが一番だったんだよね。ほら、こういう空気てやっぱり苦手だからさ。リーシャも僕と同じだろ?」

「はい、私もご自分で気づいて下されば無用な罪悪感を背負う必要がないと先延ばしにしていました。ですがそれが間違いだったのですね」

「そうだね、僕も反省。まさかこんな形になるなんてね」


リーシャとカガリは周りを見渡す。時刻はすでに夜、本日の依頼を片付けた冒険者達が今日の労を労うために酒を飲んだり食事をしている。いつもならがやがや騒がしいこの酒場がマルスの言葉でシーンっと静まり返り自分たちの動向を観察していた。

その視線はあまりいいものではなくふたりは早々に決着をつけようと頷きあう。

その仕草から長い付き合いのマルスとゼクスも二人の心情を正しく読み取りマルスは満足げに頷き、ゼクスがさらに顔色を悪くした。


「二人も俺と同じ考えでうれしいよ」

「ええ、私とカガリ前から話し合いを続けてどうするか考えていましたから」

「答えはもう決まっているんだ」

「そうだったのか?じゃいいな?」

「ええ」

「うん」


マルスは二人に再度確認をとるゼクスに視線を向ける。

ゼクスも身構え、未だに信じられない嘘だと口を震わせていた

そんなゼクスにマルスはにやりと口元を綻ばせ最終判決を叩きつけるべく口を開く


「では、満場一致でゼ」

「「マルスを蒼き稲妻から追放致します(する)」」

「「は?」」


マルスの宣言にかぶせる形でリーシャとカガリが追放宣告を告げた。

だがその相手はゼクスではなく先ほどまで喜びの絶頂にいたマルスにだった・・・


「お、おい二人とも何を言って?」


未だ状況が呑み込めないマルスが二人に問いかける。


「あら?聞こえませんでしたの?貴方を追放すると言ったのです。」

「は!?なぜ俺が!?俺はこのパーティーのリーダーでメインアタッカーだぞ!?」

「やっぱり自覚なかったんだ」


激昂するマルスにカガリが呆れたように息を吐き子供にも分かるようにやさしく説明した。


「君は強いよ?魔術は一切使えないけど剣術だけでBランクの強さはある。」

「び、Bランクだと?」

「そうSランクの2つ下のBランク。そんな君がなぜSランクになれたのか?それはゼクスの付与魔法があったから。今まで君のその何とか流って剣術でもうまくやってこれたのはゼクスの付与魔法があったからだよ。この前の依頼だって君の剣術は全然役に立たなかったしね。今までの君の功績はすべてゼクスのおかげで成り立っていたんだよ」

「はぁ!?俺は一太刀で黒龍の首を切断したじゃないか!?どこが役に立ってないって!?」

「あれはゼクスさんが貴方の剣に切断の付与魔法をかけたからですわ」

「はぁ?何言ってやがる?ゼクスが付与魔法を?そんな素振りなかったじゃないか?」

「当たり前です。ゼクスさんは魔法付与を無詠唱で行使することができる方ですから

。それも付与時は十倍の効力アップを載せて」

「「「「はああああああ????」」」」


リーシャの言葉にマルスを初め酒場にいた多くの人々が声を上げた。

魔法を使うには詠唱が必要なのが世界の常識だそれを無詠唱で行使可能な人間など聞いたことがない上、普通なら2倍の能力向上が限度の付与魔法。それを十倍など・・化け物としか言いようがない。

ちなみに周りが驚きの声を上げる中渦中のゼクスは不思議そうに


「え?十倍でこんなに驚くの?能力向上くらい普通じゃないの?能力向上だけでいいなら五十倍まで上げられるよ?他にもご五属性付与や回復付与もできるよ?」

「「「「「なにいいいいいいいいいい?」」」」」

「わっ!?どうしたのみんな?」


ゼクスのその言葉を聞いた冒険者達の動きは早かった。


「ゼクス!!パーティー追放されたんだよな?なら俺たちの所に来いよ!!歓迎するぜ!!」

「いやいや!!俺は前からゼクスに目を付けてたんだ!!ゼクス!!俺たちの所だよな!!」

「なにを!!?俺なんかゼクスがまだルーキーの時から勧誘してたんだ!!ゼクスは俺たちの仲間だ!!」

「ゼクスちゃ~ん?そんなむさ苦しいおやじたちの所より私たちの所においでよ。お姉さん達が優しくしてあげるわ~」

「おばさんは黙ってるです!!ゼクスお兄ちゃんルミたちのパーティーに加入してくれる約束です!!」

「なにを~?」

「何ですか!!}



当人たちを置いて始まるゼクス争奪戦。あまりの激しさにぱかーんと口を開けるゼクスとマルス・・そんなマルスの前にリーシャが立つと満面の笑みを浮かべ


「という事でマルスさん?貴方は私たちに必要ありません。なのでさようならです。ですが、元仲間として最後にマルスさんの再就職先を探してあげますね?」

「り、リーシャ?」

「あ、僕も手伝うよ。嫌な奴だったけどやっぱり元仲間として最後くらいは手向けになにかしてあげないとね?」

「カガリ?」


そういうやリーシャとカガリは未だに理解できていないゼクスの両腕にそれぞれくっつきリーシャが拡声魔法を発動する。


「みなさん聞いて下さい!!」

「「「わっ!!?」」」


リーシャの声にゼクス争奪戦に白熱していた冒険者たちが驚き視線を向ける。

みなの視線が自分たちに集まったのを確認するとリーシャは頷き


「まず最初にゼクスさんは蒼き稲妻を脱退致しません。」

「「「えーーーーー!!!!」」」

「今宵私たちのパーティーを追、おっと、脱退するのは自称蒼き稲妻のリーダーであるマルスさんです。彼は魔法は一切使えません。辺境の田舎道場にあるなんちゃら剣術が使える前衛アタッカーになります。性格は傲慢で不遜、依頼主にも上から視線で乱暴な言葉遣い対応をする私たちからすれば問題児ですが・・・何方かパーティーに入れてあげてもいいとおっしゃる方ははおられませんか?」

「リーシャ、お前・・」


リーシャがしたマルスの紹介はとても他者に勧めるものではなく「どうかこのごみを拾って下さい。ただし、拾ったら苦労するぞ」と言う忠告だった。

これではどこもマルスを仲間に迎えてくれる所が見つかるとは思えない。

案の定リーシャの説明を聞いた、先ほどまでゼクス争奪戦に白熱していた冒険者たちは掌を返すようにマルスをこき下ろした。


「え~ゼクスじぇねーのか?今時身体強化も使えない剣士なんかいるかよ」

「ゼクスさんな歓迎なんだけどな~そこのマルスだっけ?俺前に依頼主と揉めてるとこ見たことあるぞ?あとでゼクスが仲裁してた」

「ですです。私も見ました!!そのくゼクスお兄ちゃんに当たり散らしてました」

「マルス~?あ~。たしか前に私に色目使ってきたくず男じゃない?いらないわそんな奴」


そのあともゼクスを持ち上げマルスを否定する言葉がマルスの心を貫いていく。

そして・・・


「な、なんなんだよこれ。こんな・・」


マルスは悔しく視界が滲む

それを見たカガリが


「マルスく~ん?泣いちゃったの?みんなっ!!マルス君が泣いちゃったよ!!その辺にしてあげて?かわいそうじゃん!!」

「っぷ、なに?泣いちゃったの?」

「あ~悪かったな。俺たちは真実しか言ってなかったんだが・・そうだよな、本人にはつらいよな~」

「あんちゃん悪いな。パーティーには入れられないが今晩くらいはおごるぜ?なあ皆!?

「おう、そうだな!!パーティーには入れられないが今夜ぐらいおごるぜ!!」

「私も~、もうこの街には居場所ないんだし?最後くらいおごるわ」

「あ、じゃあ私たちも」


そういってマルスの目の前にテーブルが置かれた。その上に誰かが革袋を置くと次々に金貨を一枚入れていく冒険者達。

そして最後に仲間だったリーシャとカガリが


「マルスお疲れ様。これでサヨナラです」

「バイバイマルス!!田舎に帰って畑でも耕してれば?お似合いだよ」


そういって革袋に金貨を入れる二人

そいして最後に


「えっと・・マルス、なんて言っていいか・・とりあえず元気でな?」

「っ!!」


ゼクスの言葉にマルスは限界を迎えた。

目の前の革袋を掴み酒場を飛び出したのだ

雨が激しく降る暗闇の中マルスの姿は消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る