3.美少女騎士、再び!!

 すっかり日も落ち、辺り一面を暗闇が覆う。森の奥からは聞いたこともない何か動物の鳴き声が聞こえる。村比斗むらひとは美少女勇者ミーアと共に、目の前に真っ赤に燃える焚火を囲んでいた。



「そろそろかな」


 そう言って程よく焼けた魚を手にする。焦げ目がつき香ばしい香りが村比斗を包む。


「やっと飯だな。いただきます」


 そう言って焼けたばかりの魚に齧り付く村比斗。ミーアも一緒になって魚を食べる。



「美味しいね、村比斗君」


「ああ、美味い……、美味すぎる……」


 あまりの空腹、それが少しずつ満たされる幸福感に思わず涙が出る。ミーアが言う。



「そんなに美味しいの~? ミーアの料理」


 料理も何も焚火で魚焼いているだけだぞ、と思いつつも彼女がいなければ死んでいたかもしれないし、魚だって獲れなかった。村比斗が頷いて答える。



「ああ、美味い」


「てへ~」


 村比斗の言葉に嬉しそうな顔をするミーア。決して悪い奴じゃないと村比斗は思った。



「で、色々聞きたいのだが、まず何でお前みたいな女の子が森の中をひとりで歩いて……」


「ミーアは幼くなんて……」


 村比斗の言葉に反応したミーアがそう言い掛けた時、森の奥方から小さな声がふたりの耳に響いた。



「助けて……」



「え!?」


 目を合わせるふたり。村比斗が言う。



「今、聞こえたよな?」


「うん」


 頷くミーア。



「どうする?」


「どうするって、すぐに行かなきゃ!!」


「あ、わっ、ちょっと待て!!」


 食べていた魚を放り投げて声のした方に走り出すミーア。村比斗も仕方なしにその後を追う。



「フラッシュライト!!」


 ボフッ



「え!?」


 ミーアが片手を上にあげ唱えた照明魔法。

 それは森の中でまるで小さな太陽のように煌々と辺りを照らした。



「も、もうちょっと暗くしてくれないか! 眩しすぎるぞ!!」


「え!? あ、うん」


 ミーアはそう言って反対の手で押さえるような仕草をする。



(なんでこんなに強力なライトが出るのかな~?)


 ミーアは通常より数倍も明るいフラッシュライトに戸惑いながらも、すぐに声の聞こえた辺りを探す。そしてついにその女性を見つけた。




「あー、いた! 大丈夫ですか~? お姉さん」


 村比斗もすぐに声のした方へと走り出す。



「これは!?」


 そこには真っ白な軽鎧にスカート、そして金色が美しい髪の美少女が倒れていた。

 しかし美しきその鎧と衣装は血で汚れ、体中に擦り傷やアザのようなものある。素人の村比斗でも分かる、これは放っておいたら確実に死ぬ状態。



「あれ~、おねんね、ですか? おいたですね~」


 ミーアが倒れている美少女のそばに座って様子を見る。

 しかし村比斗はすぐに思い出した。体を震わせながら思う。



(こいつ、俺を足蹴りにした奴じゃねえか!!!)


 異世界転生してすぐ、死にそうな村比斗を「パンツを見ただけ」で何度も足蹴りにした女。美人ならある程度のことは許そうと思っている村比斗だが、さすがにあれは笑いでは済まされない。



「ミーア」


「ん? なに?」


 すぐに治療を始めようとしていたミーアを村比斗が呼び止める。



「こいつは悪い奴だ、助けなくていい」


 不思議そうな顔で村比斗を見るミーア。



「えー、でも死んじゃいそうだよ。ミーア、助けてあげるよ」


「ダメだ、放って置け!!」


「や~だよ!!」


 そう言って村比斗の言葉を無視して治療を始めるミーア。



(ちっ)


 村比斗は心の中で舌打ちしながらも、そんなミーアを見て少しだけ安心した。





「大丈夫ですか~?」


「あ、ああ。ありがとう……」


 焚火のところまで戻った村比斗達。横になる美少女にミーアが声を掛ける。



(ちっ! 何で俺が負ぶわなきゃならないんだよ。……まあ、なんかすっげえいい匂いだったし、白肌は柔らかくてすべすべだし、背負いながら不可抗力で触りまくったのは良かったんだが)


 怒りの表情をしていた村比斗の顔が自然と緩む。

 ミーアの回復魔法で上半身を起こした美少女がふたりに礼を言う。



「ありがとう、助けてくれて。私はラスティールだ」


「私はミーアだよ!」


 ふたりが村比斗を見つめる。



「……俺は村比斗むらひと


「村人?」


 村比斗を見たラスティールが言う。



「違うっ(……こともないが)!! 村比斗っ!!」


「ああ、むらひ……、あっ、お前は!!」



 ラスティールが驚いた表情をして村比斗を見つめる。


「そうだ、お前に足蹴りにされた男だ」


 ラスティールが急に顔を赤らめて答える。



「あ、あれは、お前が、私の、その……、パ、パ……を覗いた……、からじゃないか……」


「?」


 意味が分からず首を傾げるミーア。村比斗が言う。



「お前が人の前で勝手にパンツ見せて置いて、どうして俺はあんな目に遭わなきゃならないんだ!!!」


「パンツ?」


「お、おい!! わ、私は、そんな破廉恥な、こと……、ち、違うのだ!! あれは事故で……」


 焚火に当たり赤くなっていたラスティールの顔が更に真っ赤になる。そして今度は怒りながら言う。


「ふざけるな、この変態がっ!! そもそも底辺ごときがこのラスティール・ホワイトのパ、パン……」



「はーい、そこまで! おケンカはだめよ~!!」


 ミーアの声で静かになるふたり。

 ふたりとも彼女に命を救って貰っている。口には出さなくとも彼女には大きな恩を感じており、そのせいか自然と彼女の言葉には素直に従う。



「ラスティちゃんも村比斗君も、みーんな同じ勇者。仲良くしよっ!」


 ミーアの言葉にラスティールが頷いて言う。



「ああ、分かった。確かに今回は助けて貰ったようだし、先の私のパ、パ、パン……を見た無礼も特別に許そう」


 真っ赤になって恥ずかしそうに村比斗に頭を下げるラスティール。村比斗が言う。



「まあ、俺も美人のパンツ見られたし、ミーアがそう言うなら俺を殺しかけた件、忘れよう」


「美人? 私が……か?」


 なぜかその言葉に反応するラスティール。村比斗が何かを言おうとした時、ミーアが言う。



「やったあ! これでみんな仲良しだね!!」


「ああ……」


「まあ、一応……」


 言いたいことはまだあったが、ふたりはここはミーアの顔を立てて仲良くすることにした。幾分体力も回復したラスティールにミーアが尋ねる。



「で、ラスティちゃんは、どうしてあんなところに倒れていたの?」


 ミーアから渡された焼き魚を手にしていたラスティールの手が止まる。そしてその手を震わせながら言った。



「魔王、魔王ガラッタに襲われた……」



「えっ!! 魔王ガラッタって……、そんなまさか……」


 常に笑顔で周りを明るくするミーアの顔が恐怖の色に氷付く。そして村比斗が言う。



「ま、魔王ガラッタ、……って誰だ?」


「は?」


 ミーアとラスティール。ふたりはまた別の意味で驚き、固まった。

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