第7話 VIO

「急げ急げ急げ急げ!」


 だったらシャワーなんか浴びるなという話なのだが。


 そうは言っても真昼は華も恥じらう女子高生だ。

 今は夏だし、昼過ぎまで寝てたら寝汗だってかく。


 別にちょっとくらい入らなくたって臭くないと思いたいが、そういうのは自分ではわからないものだ。夜一もシャワーを浴びると言っていたし、浴びないわけにはいかない。


 でも急がないと! ただでさえ遅刻している。

 遅くなればそれだけデートの時間が減ってしまうのだ!


 昨日の夜に遅くまでラインをして、真昼はすっかり恋する乙女になっていた。

 昨日までの灰色の自分はどこに行ったのか。


 もう、頭の中も胸の中も夜一の事でいっぱいだ。


 もっと彼の事を知りたい。彼と仲良くなりたい。色んな事をしてもっとちゃんと恋人らしくなりたい。そしてあわよくば夏休み中に大人の階段を……キャー!


 なんて事を考えている。

 勿論努力目標だが。


 友達には既に大人になった子も結構いる。


 そんな中で、いまだに彼氏の一人も出来た事のない真昼はお子様扱いを受けていた。


 別に張り合うつもりはないが、イケてるギャルの体裁というものもある。

 それに時期的にも夏休みというのはロマンチックだ。


 まぁ、流石に一ヵ月でそこまで行くのは超特急過ぎる気もするが。

 せめてキスまでは進みたい。……本当に?


「なんちゃってーなんちゃってー!」


 恥ずかしくなり、真昼はバシャバシャと地団駄を踏んだ。

 それでハッとする。


 危ない! ムダ毛の処理を忘れていた!


 いや、別に忘れているわけではないのだ。腋なら昨日綺麗にしたばかりである。でも昨日だ。その一日で、ほんのちょっぴり伸びている。


 全然目立つ程ではないが、でも気になる。触られたらわかるかもしれない。触らなくても、間近で見られたらわかるかも。もしかしたら初日で大人の階段イベントが発生しないとも限らない。


 流石にそれは早すぎるからお断りするとは思うのだが、そうは言ってもなにが起こるか分からないのが人生だ。実際夏休み初日に初対面の男子と付き合う事になってしまった。


 だから、用心しておいて損はない。

 もしもの時に恥をかくのは自分だ。


 でも、早く身支度を済ませてデートに行きたい。


 どう考えても夜一の方が準備は早い。こっちのタイミングに合わせると言ってくれたけど、モタモタしていたらやる気あんのかこいつ? と嫌わてしまうかも。


 それはやだ! すでに十分寝起きの悪い寝坊女と思われてるはずなのに!


 でもやっぱり腋は譲れない。折角だから可愛い服で会いたいし。

 なんならちょっとセクシーな服で攻めてみたい。


 手早くしっかり処理し、これでオーケーとはならない。

 鏡に映った下半身を見つめて悩む。


「……こっちも綺麗にした方がいいのかな……」


 勿論はみ出さない程度には綺麗にしている。でも、こんな事になるとは思ってなかったから最低限だ。やばい、どうしよう。どのくらいが普通なんだろ。あたしって濃いのかな、薄いのかな。むしろ全剃り? いやいや、それは変でしょ。外人さんじゃあるまいし。


 あぁ~! 

 こんな事ならみんなの話もっとちゃんと聞いとけばよかった! 


 女の子用のシェーバーを手にオロオロする。大体そんな所、真面目に整えた事なかった。これはヘアスタイルと同じだ。素人が下手に弄ったら大変な事になる。やるならもっとちゃんと調べて着手しないといけない。っていうかこれ、どこまで生えてるの? まさか、お尻まで伸びてないよね……。


 なんて事をつらつら考えつつ、鏡の前で足を開いたりお尻を向けたりする。


「ああもう! こんな事してたら夜になっちゃうよ!」


 流石に今日はそこまで行かない!


 そう信じて真昼はお風呂場を飛び出した。

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