第29話 初夏の一コマ


ある初夏の日。

朝食をノンビリ食べて外に出た。

目の前には次々と運び込まれてくる収穫されたヤサイ、やさい、野菜。


「…ちょっと多かったかな」

「マークスめはこの1/10程度でよかったかと思いまする」

「そだね。来年はそうしよう」


夏野菜はいっぱい取れた。

いっぱいいっぱい取れた。


いつの間にやら森を切り拓いて作った畑はかなり大きな面積になった。

まあ広大な裏森の全体で言えばその1/10以下だ。

大したことは…まあある。


東京ドームで言えば何個分くらいあるんだろうか?

そもそも東京ドームがどのくらいの面積か知らんけど。


しかし、何でこれ全部畑にしちゃったんだろうな??


「今更だが…農場と言ったが、牧場やら鶏舎、豚舎なんかも作ったな?」

「そうでございますね。豚は子供が生まれたようです。」

「それは重畳。鳥は見つかったか?」

「まだでございます。若の言うような飛ばなく、よく卵を産む鳥はなかなか見つかりませぬ」

「飛ばなくて毎日卵を産んで肉が美味くてそこそこ大人しい鳥だ」

「そんな都合のいい生き物は居りませぬ(ビシッ」


むう。魔族の領地には鶏はいないのかな?

豚や牛もなんだかちょっと荒々しいもんな。イノシシなんて猛り狂ってるし。


「あとは麦畑だな。秋からは冬野菜より麦を多めに作ろう。それとイモ類をもっと増やそう。」

「ハッ」

「夏野菜はちとやりすぎた。もう少しバランスよくやろう…いや、そもそももっと拡大したほうがいいのか?」

「時間と金銭の都合がつけば拡大すべきですな。広大な面積ですが今の孤児の数からすればまだ余裕はあります。現在開拓している土地は牧場をさらに広げる予定ですが…野菜の売り上げからいくらか費用を捻出できればと考えておりますが。」

「そうか。しかしこの夏野菜の量はちと多すぎたな…あれ?果樹園なんかもいいんじゃないか?今更だが俺の魔法で果樹園作れば…クソっ!何で今頃思いつくかな!」

「坊ちゃんの魔法で木を育てれば収穫まですぐでしょうなあ…」


だよね。どうしてそのこと忘れてたかなあ…はぁ。



それにしてもこの夏野菜多すぎだろ。

うず高く積まれているのは今日一日に収穫された野菜たちだ。


この量を屋敷で消費なんてできるわけない。

最初はがっついていた孤児のみんなもいい加減トマトは食べ飽きただろう。


頑張って売ろうにもこの領都の町のみんなだけじゃ買いきれない。

色々教えてもらった猟師と漁師、罠を作ってくれてるオッサンや鍛冶屋のオッサンたちの所には毎日みたいにお裾分けに行っている。

それに世話になっている人たちや、これから世話になろうとしているところにもいっぱい持ってった。


それでも余ってしょうがないんだな。

もっと保存できるものを作るべきだったか。うーむ。


「年寄り連中が張り切りました。中には土魔法の使い手も何人かおりましてな…それに若様がせっかく発芽させたのですから植えねばもったいないかと。」

「むむ。失敗して収穫がないってのだけは避けようと思ったからな…まあいい。出荷のほうはどうなっている?」

「わが領の市場ではすでに出回っております。若様のお手製とのことで値段が上がっておりますぞ。魔王様の領地へも出荷予定です。」

「俺は口を出した以外には芽を出すくらいしか世話してないぞ」

「そうですな。出荷についてですが、問題は一部を除いてあまり日持ちしないことです。遠隔地への出荷は困難です」

「なるほど…」


俺はほとんど手出しをしていない。これは事実だ。

芽が出たら後は領民に任せて放置プレイである。


それにしても遠隔地か。トラックは無いし、冷蔵技術もない。

いっそのことドラゴンとかで空輸できればいいんだが。

あとは…だめだ。精々氷魔法でも使える奴を呼んでくるくらいしか思いつかん。


トマトと言えばケチャップに加工するとか。トマトジュースとか。うーむ。

缶詰に出来れば日持ちするんだけど、今からトマトが腐るまでに缶詰の技術をってのはとても無理だ。瓶詰か?ビン…うーむ。

それに缶やビン代の方が高くつきそうだ。…まあ来年以降の課題だな。


まだトマトはマシだがキュウリなんかは日持ちも悪い。

うーん、食べきれなさそうな分は最悪豚のエサか。


しかし、頑張ってもケチャップの加工法を教えるくらいしか時間がない。

なんと言っても俺は忙しいのだ。

お勉強はモリモリやらされるし、修行もダンジョンも忙しい。筋トレもしないと。


筋トレについてだが…この体は何処かダメなんじゃないかと思う。

父上はあれほどムッキムキなのに俺の体はいくら鍛えても筋肉がつかない。

イノシシ肉やシカ肉、トリ肉なんかを食べてもやはり筋肉にはならない。


挙句にどの侍女からも可愛い可愛いと言われる始末。

何度も言うが父上はムキムキマッチョに角が2本のヒゲダンディだ。

父は鬼族らしいが、成程と言わざるを得ない。

まあ普段着も正装もレスラーパンツにマントの、所謂裸マントマンである。

うーむ。まあ筋肉があればそれすらかっこよく見え…見えるわ。ぱない。


それに比べ俺はヒョロヒョロのガリガリだ。

どうも可愛らしい顔立ちをしているようだが、鏡なんて惰弱なものはこの屋敷にはないので自分のことはよくわからない。

まあ気にしてはいかん。今日も今日とて特訓だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る