第22話 そうだ、結婚しよう。


アーク歴1493年 陸の月


リヒタール領



金がない。

金がない時は狩りをして稼ぐ。これはRPGの鉄板だ。

そうは言っても、今俺がいる20層にはボスが出る。

そのモンスターは氷狼こおりおおかみ風虎ふうこさん。

この辺りの階層に通常出現する狼と虎を二回りほど大きくしたボスである。


そして俺たちはそのボスの手前に居る、ほぼ同じ条件の…大きさが小さくなり、魔力が弱くなった所謂練習用モンスターと戦っている。


練習用とは言っても割と強いし、ここに来て初めての属性持ちのモンスター。

風も氷もどちらも火属性のアシュレイには相性はそれ程よくない。

樹属性である俺には氷も風もそれほど悪い相性ではない。

やや氷は苦手だが、まあこれと言って相性の良い相手も特にないんだけどさ。


「ツリーアロー・ダブル!」


指先から2本の木製の矢が出て、2体の氷狼に命中。そのまま拘束する。


「トラが来るよ!」

「分かってるわよ!」


氷と風、火と相性の悪いのがどちらかというと圧倒的に氷の方だ。だからまずは氷狼を拘束。

アシュレイは風虎の突撃を食い止め、返す刀で虎の右前脚を斬り捨てる。


「ギャオン!」

「逃がすか!フレアストーム!」


退こうとする風虎に続けて火属性中級範囲魔法を放つ。


「グオオオオ…」


ドスンと音を立てて倒れる虎。

それを横目に見ながら俺は氷狼に向かう。


「せいやあああ!」


叩きつけるのは槍だ。色々試してみたが木によって拘束された相手を倒すのは刺突に限る。

そして刺突と言えば槍なのだ。

槍は木の枝をすり抜け、氷狼にざっくり刺さる。

狼は口から氷の息を吐いて何とかしようとするが、頭まで拘束されているので何という事はない。

動けないのを良い事にむき出しの下半身やお尻を後方からザクザクと刺す。

卑怯とは言うまいね。


「きゅおおおん…」


物悲しい声を出して氷狼は消えていった。


「…何やら申し訳ない事をした気分だ」

「勝てばいいんだよ勝てば」



モンスターを狩り、溜めに溜めた金で買ったこの槍は『竜牙の槍』ATKが+70あるそこそこの槍だ。

鉄製の武器は大体ATK+50で、アシュレイの剣がATK+120なので…まあまあそこそこ良い性能と言っていいだろう。アシュレイの剣が業物だってのは言うまでもない事だし。


ちなみに竜の牙といえばワイバーンやレッサードラゴンの牙を指す。

龍の牙なら幼龍から赤龍に青龍、それから真龍、古龍の牙までずいぶん差があるが…勿論この槍はお買い得なレッサードラゴンの牙だ。

ぶっちゃけほとんどトカゲと変わらない奴である。

なのであくまで『それなり』の性能、『それなり』のお値段なわけだ。


果たして『それなり』の槍はやはりそれなりに強い。

今の俺にとってはとても頼りになる相棒だ。

相棒のおかげか、20層にいる氷狼と風虎は俺ら二人で結構楽勝である。

ギルドの推奨レベルはダンジョンの階層×2なのでパーティー平均で30程度だったと思うが…まあ俺達は20台で余裕なんだけど。


「そうだな。うむ、我々も強くなったものだ。」

「ダンジョン10層台は初心者が躓きやすいっていうけど割と行けるもんだな。」


ここら辺から急に敵が強くなるとされている。

属性持ちや魔法を使うもの、遠距離攻撃を行うもの。

そしてこちらの属性魔法を無効化するものなどが出現するようになるのだ。


そう考えると樹魔法はほとんど物理的な攻撃ばかりなので汎用性は高い。

ただし火力は低い。うーむ。


「拾わないのか?」

「拾う拾う。ちょっと考え事してた」

「ふうむ。最近ボーっとしてることが多いな。大丈夫か?」

「ああうん…。いつまでこうしていられるかなって」

「うん?いつまでとは?」

「あー、いや。ダンジョンの事だけどな。アシュレイはお姫様なわけだろ。そんで次の王様なわけだ。いつまで一緒にこう狩りしていられるかなって。俺はその他大勢にすぎないし…それに…」


それに。

ゲームの流れ通りならアシュレイの父や俺の父はどこかで退場する。


まだすぐそこにある未来じゃないだろうけど、それまでに何とか出来るのだろうか。

何とか流れを変えることが出来るなら…でも、『何時』『何処で』『何が』起こるのかはサッパリ分からない。

一応うちの親父には気を付けてと言っているが、親父もそう言われても何をどう気を付けるやら分からないだろう。うーん、参ったなあ。


「そ、それほどお前が私の事を思っているとは…その、あのだな。」

「うん?」


何やら隣でモゴモゴ言うアシュレイがいる。

顔も真っ赤だ。どうした?


「わ、私もその、以前のお前はどうかと思っていたが…最近は悪くないと思っている。急にたくましくなってきたしな。その、母上もどうせならカイトにしろと言うしな」

「うんん?王妃様が俺にしろって?」

「ウン…でもこういうのはお互いの気持ちが大事だと思うんだ」

「うん。…うん?」


うーん??

顔真っ赤にして何言ってんだ?


えーっと?

狩りの話してたら俺がアシュレイの事を?んで王妃様が?たくましくなった?

うーんと…


ああ。なるほど。

俺は鈍感系だとは思うが、それでも前世の記憶がある。

それなりに大人のお付き合いもしていたのだ。あくまでそれなり程度だが。


そしてその経験豊富…??

まあいい。豊富な経験から導き出すと、どうもこれは俺がアシュレイの事を好きだって流れになってしまっているのか。

そしてアシュレイもなんやかんやでいい感じかもと。



ふむ。


ちょっと整理してみよう。

まず一番大切な事だが、こいつは将来おっぱいバインバインの美女になる。

これは文句なしに一番大切な事だ。


そして性格もいい。

強いし、話も合う。一緒に農業もしてくれる。

ここまでが良い所だ。


で、微妙なところは…俺は美人が大好きで折角異世界に来たのだから美人をいっぱい集めたハーレムを持ちたい。でもこいつの身分は王様。

そうなると俺がハーレムとかは色々難しいかも。ってところか。



でも将来アシュレイはおっぱいはバインバインの美女になることは確定。

つーか今でも普通にかわいい系。

なるほどなるほど…

つまりここから導き出される結論は…


「なるほど。わかったぞアシュレイ!」

「は、はわわわわ!」

「身分だとか立場だとかは何でもいい。うん。どうでもいいな」


身分だとか立場だとか。

くだらん。実に下らん事だ。


世界の全てはおっぱいで出来ているのだ。

しかもそれがバインバインのおっぱいなのだ。


ついでにという訳でもないが、性格も悪くない。普通にいい子である。

俺の本能が告げている。ここは押すべきだと!


「よし、結婚しよう!」

「なっ、何を!はわわ」

「そうとなれば金をためて指輪でも買うか。給料の3か月分だな。叔母上にも話をしにいかねば。それに…まあ親父軍団は別にどうにでもなるか。」

「おっ、おま。わわ、私の意見はどうなるのだ!」

「うん?嫌なのか?」


そりゃー嫌ならしょうがない。

俺が女の子ならイヤイヤ結婚させられて好きでもない男にのしかかられるなんて悪夢以外の何物でもないだろう。夫にとっても妻が毎回イヤそうにしてるなんてのは最悪だ。

まあ中には嫌がる顔を喜ぶという特殊な嗜好の持ち主もいるから余計ひどい目に合うだろうが…


「い、いやそれは…嫌ではない…ぞ?」

「そうか。今夜は赤飯だな!ヒャッハー!」

「せ、せきはん???」


アシュレイは混乱の極みで目をグルグル回しながら返事をする。


まあ赤飯は冗談だ。

そもそも小豆が無ければ米も餅米もないのだ。

まだまだ先は長い。


幸せな日本の食卓を『夫婦』で囲む。

うむ。素晴らしい目標ができた。

そのために俺は頑張るのだ。

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