第19話 縁故採用


アーク歴1494年 参の月


リヒタール領




冬も終わり春になったころ、堆肥は完成した。とおもう。

というか継ぎ足し継ぎ足しでどんどん量が増えていった。

何か発酵熱らしきものを濃厚に感じたので多分大丈夫だとは思うけど…わからん。

まあ濃厚演出が出たんだから大丈夫だろう。



途中からは堆肥ボックス2個目を作った。

だって一個目のがパンパンで壊れそうになったんだもん。

木で適当に作った枠に土や藁や生ごみや馬のウンコを適当にポイポイやっただけだからな。中身が大きくなって圧がでかくなるとやばい。


堆肥をスコップで取り出し、畑にまく。混ぜたらいいだとか、混ぜずに堆肥は載せるだけだとか色々聞くが、1年目の痩せまくった土地なのでとりあえずよく混ぜよう。


そうすると黒々とした畑が…できない。

まだまだ痩せた土地だからな。


面積も正直まだまだ狭い。

これじゃあ農場と言うより兼業農家のおじさんが日曜日と会社帰りにチョコチョコ世話してる畑、って感じだ。まあそのままか。



さてまあ、ちと遅いが種を買おう。

苗は高い。

だが種を買ってしまえば後は俺の魔法で何とかなるだろう。


もう春なので普通は種は置いてないと聞いたが、先に言っておいたので領内の農家に種は売ってもらえた。領内の農家と言うがぶっちゃけ屋敷にいるメイドの実家であったりだとか、マークスの親戚だとか、種の由来は縁故採用である。だって人間ですらわからんのに種の能力値なんてわかんねーし。


やっぱ世の中コネっすよコネ。種すらコネ採用なんだもん。

世界はコネで出来ているのだ!

まあ縁故採用の種はぼちぼち正当な価格だったようなので文句はないだろう。無いよな?あ?


手に入れたブツはトマトやナス、ニンジンにサツマイモのツル、それにスイカだった。

スイカはちょうどいいかもしれないが、他はもう春になってるのでどれもやや遅いか?まあ大差ない。種を植えたらそこからは俺の魔法でどうにでもなるのだ!


畑に畝は既に作ってある。

細かい所を少し修正し、草を抜いて。

プスプスと開けた穴にポイポイ種を放り込む。

軽く土をかけ、水を…ああ水道とホースとシャワーヘッドが欲しい。


アレがあれば畑の水やりくらい楽勝もいい所なのに。

たかが水やりで現代のチートさを痛感することになるとは…



しょうがないから水を柄杓で撒いた。


『水を柄杓で撒く』

字で書くと7文字だ。

簡単に言うがこれはけっこう地味でつらい作業だ。井戸からバケツに水を汲んで畑まで移動し、バケツから柄杓ですくってコップ一杯分程度をチマチマ撒く。

まだ小さい畑だから何とかなるが、将来農場が大きくなったらどうすりゃいいんだ?俺が全部すんの?これ?

ぐぬぬ…水道があれば一瞬なのに。ホースとシャワーヘッド…くそう!


まあいい。

水魔法を覚えるまでは水やりは諦めよう。時間と労力をかければ何とかなる。

広くなれば誰かに手伝ってもらえばいい。

それよりこれからは俺の本領発揮の時間だ!


「ふんぬぬぬぬぬ!そだて!そだてー!」


畑全体に魔力を注ぐ。

声に出した方が成果が高いのは実験済みだ。


「ぐぬぬ!がんばれ!育て!」

「…カイト、何やってるんだ?」

「バカイト!キャハハハ!バカー!」

「うるせえアホリス!黙って見てろ!!!(怒」


呆れ声のアシュレイに明らかに俺を馬鹿にしてるアホリス。このクソアホはいつか殺してやろう。

何粒の種を植えたかわからんが、それなりに集中が必要だってのにこのアホは……お!キタキタ!


「ふぬわー!よっしゃー!」

「何がよっしゃなのじゃ?」

「おお!芽がでてるぞ!」

「どうだ!見たかアホリス!」


ポンポンっと可愛らしく芽を出す野菜たち。

二人は目を丸くしてこれを見ている。

どうだ!ものっそい地味な魔法だろう!


後はある程度大きくなるまでこの成長を促す魔法をかける。

こんな地味な魔法はゲームにはなかったが、どうも草木に俺の魔力を直接ぶっかけると好きなように変形できるし、引っこ抜いたり成長を早めたりもできる。


なるほど、ゲームでカイトに内政をさせると収穫が上がるわけだ。

まあこんなのでどうやって戦えってんだって能力だけどな……


感動してるのかボンヤリと畑を見るアシュレイとポカーンとみているアホリスを尻目に俺はしばらく魔法をかけ続けた。

その結果、栽培1日目にして作物は5cmほどに育ったのだった。

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