残り10粒

 役所を出れば、猫たちが自由気ままに歩き回っている。


 夜中から明け方までは本当に多いな。


 だから好みの猫を探してる奴もいるし、わざと地面に横たわって猫に踏まれてる奴もいる。


 幸せそうだな、あの人たち。


 他の町でこんなことをしたら、白い目で見られる。まぁ、他のものであふれる町にたくさんの猫なんていないけど。だからこそ、自分が選んだ町ではみんなが自由に過ごせる。

 微笑ましい光景を眺めながら歩けば、猫たちが俺を囲いないがらついてくる。それが可愛くて、立ち止まる。そして我先にと頭を擦り寄せてくる猫をなで、触れ合いを楽しむ。


「ずっとこうしてたいけど、明日、ってか、今日か。今日な、早起きしなきゃいけないんだよ。ごめんな」


 猫にはわからないだろうが、今発行してもらったカードタイプの証明書を取り出し、ひらひらさせる。


「おっと。おもちゃじゃないんだよ」


 急に動く物が出現したからだろう。猫たちが群がってくる。猫パンチ、可愛すぎ。


「じゃあな」


 カードをスーツの内ポケットへしまえば、不満そうな声を猫たちが出す。それに苦笑しながら別れを告げれば、猫たちがいつもより近い距離でついてくる。


「どうした? 俺について来てもいいことないぞ」


 歩きにくくても、猫を傷つけないようにゆっくり歩き続ける。


 こんなにいるなら1匹ぐらい……。って、その考えがだめだ。気まぐれに連れ帰ったところで、どっちも不幸にしかならない。

 ってか、決まりだしな。


「ごめんな。代わりにお前たちの好きなマタタビやるから」


 猫のためだけに配合されたマタタビは、どんなに使っても問題ない。むしろ、町に住む人間に毎月支給される必需品だ。買い足すこともよくある。

 今月分の圧縮カプセル型マタタビ入れをカバンから取り出す。それらはプラスチック製の瓶の中で鈍い音を立てた。

 

 あと10粒しかないとか、使いすぎたな。

 朝、コンビニ寄って買っとくか。


 そう考える俺に催促するように、猫たちがどんどん集まってくる。


「待っとけよ」


 猫たちも学習しているのだろう。ナーナーという鳴き声がナーオナーオと大きくなってきた。


「行くぞー!」


 カプセルに取り付けられたボタンを押して、遠くに投げる。するとポン! と景気よく弾け、マタタビが降り注ぐ。


 今のうちに。


 こうなると見向きもされない。風に乗って飛ぶから、他の猫たちも集まってくる。それを見届け、俺は駆け出した。

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