第7話 自己紹介

 礼を終えると、集落の者達が順に自己紹介をしていくという運びになった。


「ワシはもう済んどるんやが、ヒック、一応、形としてやり直しとくかの? ごぼんっヒック」


 赤ら顔で咳払いを一つ。元医者の中瀬爺さんが先陣を切る。


「ワシは中瀬 繁。元医者で大阪出身。今はこの村で隠居生活をしとる。みんなからは飲兵衛と呼ばれておるんじゃ、よろしくな」


 ヨレヨレ白衣に、てっぺんハゲ。赤ら顔がトレードマーク。

 ――――通称『飲兵衛』


「ワシは藤堂 新八。この集落の年寄り連中じゃ最年少の71歳。趣味は65年間続けておる空手じゃ。まだまだ喧嘩じゃ若いものには負けはせんぞ?」


 歳不相応な筋肉隆々、口ひげスキンヘッド。

 ――――通称『六段』


「はがふがほがむが……」


「おお、占いさん。ほらほら入れ歯が外れとるぞ、しっかりせんか」


 何かを言いかけ、拍子で入れ歯を落としモガモガしているお婆さんを世話しつつ、六段爺さんが代わりに紹介してくれる。


「この婆さんは加藤 美智子。この集落一番の長生きで92歳。占いが趣味でよく当たる婆さんだったが最近ボケてきてな、いまはワシがほとんど面倒をみている」


 白髪おさげに、ぶかぶか僧衣。

 ――――通称『占いさん』


 後は元一爺さんと節子婆さんを合わせて、五人がこの集落の年長組とされているらしい。

 ちなみに元一爺さんは『ゲンさん』

 節子婆さんは『セツさん』と呼ばれている。

 そして年少組の自己紹介が始まった。


「はじめまして!! 僕の名前は野木 真司。東京出身の32歳で動画配信をやってます!! 今度一緒に動画に出てみないか!?」


 赤三角マークのシャツがトレードマーク。明るく元気な長髪痩せ男。

 ――――通称『ヨウツベ』


「ば、ば、ば、馬鹿ですか? そ、そ、そ、そんなことをしたら世界にアルテマたんのファンが増えて大変なことになるじゃないですか、だ、だ、だ、だ、断固反対する斎藤 順と申すものでござる。25歳、無職と言う仮面を被った夢追い人でござる。アルテマ殿、ようこそ、でござる」


 チェックのワイシャツ、汗まみれになって神経質そうにメガネを拭いている丸刈り肥満体型。

 ――――通称『アニオタ』


「……まぁ、わたしはべつにいいや、あまり関わることもないだろうし。ずっとゲームしてるだけだし……」


 ヨレヨレのTシャツと、使い古しのジャージ。ボサボサロング黒髪に年齢不詳のガリガリ根暗娘。本名は木下 佑美。

 ――――通称『モジョ』


「最後は私!! よろしくね、アルテマちゃん!!♡」

「近い近い近い近い!!」


 真琴と名乗った抱きつき女がズズィっと顔面を近づけてくる。


 黄色いシャツに藍色の作業ズボン。丸メガネに黒髪三つ編み。

 容姿は抜群に整っているようだが、崩れた表情のせいでかなり分かりづらくなっているのがもったいない。


「趣味は読書とか、映画とか、ドラマとか……とにかくロマンチックな物語を見るのが大好きな21歳独身!! ちなみに彼氏はいませ~~ん!!」


 その言葉に後の三人の若者がやんややんやと盛り上がる!!


「当然でござるよ!!」

「うむ、我ら鉄の結束はプラトニックな上にこそ成り立つもの。結構結構」

「……裏切ったら……クビ……舌噛んで……死んでやるから…………」


「そんなこんなで、私たちこの集落で共同生活している謎のニート集団『鉄の結束団』で~~~~す、よろしくねアルテマちゃん!!」


 ――――通称『ぬか娘』と呼ばれている真琴が、陽気に挨拶を締めくくった。


「……う……うむ。よ、よ……よろしく頼む……」


 知らない単語が目白押し、いちいち婬眼フェアリーズをかける気力もなくなる。

 若い連中の言ってることがワケわからんのはコッチの世界でも同じなのかと、アルテマは冷や汗を流しながら適当に挨拶を返した。


「――――でっ!!!!」

「ぬがっ!??」


 真琴改め、ぬか娘は、アルテマの頬を両手でしっかり挟んで話の先を勧めてくる。


「アルテマちゃん異世界から来たんでしょ!?? でしょでしょ?? 六段さんと話してるの聞こえたわよ!!『暗黒騎士』とか何とか!! 早く、早く早くちょうだいっ!! そのお話し聞かせてちょうだいっ!!!!」

「やめろ、やめろう!!」


 興奮しきったぬか娘はヨダレを垂らしながらアルテマに頬ずりする。

 擦り付けられたヨダレでビチョビチョになったアルテマは不快で吐きそうになるが、


「だから落ち着けって言っとろうが、この粗忽娘が!!」


 ――――ごしっ!!

 と、またもや六段の鉄拳がぬか娘の脳天に炸裂した。


「きゅぅぅぅぅぅぅ……」


 再びノビてしまったぬか娘。

 そんな彼女の首根っこを掴んで、六段さんは他の三人を睨みつける。


 ――――すん。


 若者たちは一瞬にして静かになり、我関せずの姿勢を決め込んだ。


 ――――なるほど、この爺さんには取り入っておいたほうが良さそうだな、とアルテマはすかさず集団の人間関係を理解し、自分の立ち位置を模索する。


「……まぁ、しかしこのぬか娘バカの言うことももっともじゃ。ワシたちとて、おヌシの素性は気になるところ。少しはゲンさんから聞いておるが、なにせこの男、律儀でのぅ、お前さんの許可無しに詳しい話は出来んとほとんど何も話さないんじゃ。ワシらとて色々協力してやったというのにのう?」

「じゃから、それは感謝しているが、コレとは話が別だと言っとろうが!! 人様の素性などそう簡単にペラペラ喋れるか、破廉恥な!!」


 元一が顔を赤くして怒った。

 べつに言いふらされても構わない覚悟で話したのだが、元一はそれを頑なに秘密にしていてくれたようだ。


(ふむ……やはりこの男は信用できるようだ)


 アルテマはあらためてこの男に拾われた幸運を暗黒神に感謝した。

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