水に振動する

isia tiri

水に惹かれる

君は、今日も泳いでいる。


水泳部の君は、放課後に5人という少ない部員ではあるが切磋琢磨し、これからの大会に備えている。


自分は、その水泳部のマネージャーだ。


初めは選手にならないかと君や部長である先輩に声をかけられたが、泳ぐのはあまり得意ではないため断った。


それに…

みんなの、そして君の泳ぐ姿を見ることが好きだからっていうのもある。その姿を見たくて、その姿を見るために支えたくて、マネージャーになった。



君は、いつも楽しそうに練習をする。

君の泳ぐ前のワクワクしている表情と、泳ぎ終わった後の水から顔を出すときに見える笑顔がとても大好きだ。それに…水と汗が混ざり合っていて綺麗だなって、思うんだ。


君のきらきらしている姿を見る度に、心に明かりが灯る。



その時はいつも遠い遠いあの日の思い出が蘇る。


君と初めて出会った、夏の青い景色の中で、水に振動している姿が濃く濃く頭に残っている。あの時すでに君は輝いていた。その日、水の音が大きく聞こえる中、君のもとへ駆け出した。初めて会話したのはその時だった。



「あのっなんで泳いでいるのですか?」


「水と心が惹かれ合っているんだ。」


「泳ぐことが大好きですか?」


「あぁ、とても。」



この時は何を言っているのか分からなかった。水と心が惹かれ合うなんて想像も出来なかった。今もはっきりとは分からないけど、ただただ君は泳ぐことが大好きなんだろうなってことは伝わってくる。君が奏でる水の振動と共に…。



今日の練習は、平泳ぎの練習をメインにするようだ。君は平泳ぎと自由形でクロールを大会で泳ぐ予定だ。平泳ぎが1番大好きだといつの日か言っていたね。『得意なのはクロールだけどやっぱり1番平泳ぎが楽しいんだ』って。


なんで?って聞いたら

『平泳ぎをしている時、嫌なことも不安なことも何もかも忘れられる』

と君は言っていた。


いつも笑顔で楽しそうに水泳をする君に嫌なことや不安なことがあるのだろうかと思った。


その答えは後に分かることになる。


ただ、今はいつものように君は泳いでいた。

だけど、いつもより水が大きく揺れていた。

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