亮の話②

8ヶ月前ー


結婚してすぐの正也が父親になった。


俺よりも遅く結婚した友人はみんな父親になってた。


「いやー、半年だったわ!治療したら、色々あったけど楽だったからよかったわ」


そう言って、笑っていた。


オムツをプレゼントに持っていったんだ。


正也、悟志、清志、斗真、俺達は仲良し五人組だった。


「亮もさっさと不妊治療行けって!年取るだけ、嫁さんが駄目になってくんだぞ」


「そうだぞ!卵子が古くなるんだよ」


「年寄りの卵子じゃ妊娠しにくいからよ」


そんな風に言われた。


「早めに越したことないって」


「そうだな」


嬉しそうに正也に子供を抱かせられて、他のみんなの子供の写真や親バカ話を散々聞かされていた。


めんどくさ!


そんなどうでもいい会が、5時に終わった。


「じゃあな」


「また、集まろうな」


「おう」


子供の話しかしないやつって、めんどくさいわ!


そう思いながら、俺は自宅近くの居酒屋で酒を飲んだ。


何杯か飲んで、酔って帰宅したのは6時過ぎだった。


ガチャ…


「おかえり、亮」


「ただいま、葉月」


風呂から上がった葉月と玄関であった。


俺は、鞄を放り投げ、靴下を脱ぎ、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しながら歩いていく。


葉月は、それを拾いながらついてきた。


「お水いれる?」


「ビール飲むんだ」


冷蔵庫から、ビールを取り出した。


グビグビとビールを飲む。


葉月は、隣に立った。


俺は、葉月を引き寄せて抱き締めた。


「どうしたの?」


「俺だって赤ちゃん欲しいよ!すげー、欲しい」


「うん」


「葉月の赤ちゃん、絶対可愛いし愛せる自信あるから」


「うん」


「なのに、何でかな?」


「わからない」


「俺、量もちゃんとあるしいけてると思うんだよ。だからさ、葉月の卵子が腐ってんじゃないの?老化してんだろ?」


酷い事言ったと思った。


葉月は、俺から離れた。


「は」


「ごめんね、お腹痛いから、先に寝るね」


「葉月」


そう言って、葉月はいなくなった。


最低だってわかってた。


言った瞬間に、わかってたんだ。


俺は、ビールを飲み干した。


自分が、絶対大丈夫なんか言い切れないくせに…。


検査だってしてないくせに…。


それでも、葉月のせいにした。


集まりで、傷ついたからって葉月に酷い事を言っていい理由にはならなかった。


俺は、救急箱からお腹の痛み止めとペットボトルの水をとって、寝室に行った。


寝室に入ると葉月が泣いていた。


「うっっ、ヒックヒック」


葉月は、めちゃくちゃ号泣するとしゃくりをするんだ。


「あー、うう、ヒック」


口を押さえて一生懸命耐えて泣いてる。

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