転生悪女の命名権(ネーミングライツ)~逃げ出した創造主の代役なんてゴメンです!

清見こうじ

第1章 転生悪女になっちゃった

第1話 断罪されちゃった

「ザイディオン公爵令嬢ルクレツィア! そなたとの婚約を破棄する!」


 キラキラのシャンデリアの光があふれるダンスフロア。

 オーケストラの荘厳なメロディーをBGMに「おほほ」「うふふ」と貴婦人の皆さまが笑いさざめく中、それは突然、宣言された。


「……へ?」


 ファーストダンスの申し込みを受けるため、フロアの中央に歩み出た私に突然投げつけられた言葉に唖然として。

 この会場にいる貴婦人の中でも指折りの高貴な令嬢としては、品のない返答をしてしまったが、まあ、仕方ない。

 っていうか、衝撃のあまり、いきなり前世を思い出すとか、カワイソ過ぎない?


 衝撃……そっか、衝撃だったんだね、ルクレツィアにとっては。


 ま、そりゃそうでしょうよ。

 蝶よ花よと大切に大切に育てられた、公爵家のお嬢さま。

 公爵って言ったら、あれよ? 単なる貴族じゃない、王家に連なる家系よ?

 ルクレツィアの父上であるザイディオン公爵だって、現国王とはいとこ同士。

 先代ザイディオン公爵夫人、つまり私のおばあさまが王家から輿入れした王女で、前国王の妹にあたる。

 かなり末席だけど、実は私にも王位継承権があるのよ。歴史を紐解けば、少ないとはいえ、女王もいる。

 というか、この婚約だって、それが大きな理由なのよ。


 私の婚約者、今、唐突に婚約破棄宣言をした、この国の第一王子は、ありていに言うとあまり血筋がよろしくない。


 一夫多妻制の王家では正妃である王妃以外に、側妃が複数存在する。

 現国王陛下にも2名の側妃がおられる。

 3人のお妃様のうち、最も寵愛されているのが第一側妃マリアンヌ様だ。

 その清らかな美貌で王を魅了した寵妃設定にふさわしく、実家の身分は低め。

 と言っても伯爵令嬢だけど。

 王妃のアンジェリカ様は隣国カルダイアの王女なので、その差は歴然。


 ぶっちゃけ、この王子はその側妃マリアンヌ様の息子なのだ。

 王子さまたちの王位継承権は、生まれ順ではなく同率1位なので、王太子になるまでは誰が王位を継げるのか決まっていない。

 王妃アンジェリカ様の生国は、国力はうちの国よりやや劣るとはいえ、同盟国。

 順当なら、アンジェリカ様のお産み遊ばした第二王子か、第二側妃で外務大臣マイル侯爵家令嬢であるコーデリア様のお子様の第三王子が王太子に立つのがセオリー。


 長子とはいえ血筋でも権力でも劣る第一王子が立太子するためには、それを補う後ろ盾が必要……というのが、この婚約の裏事情だったんだけど。


 で、ルクレツィアは、そんな事情も承知で婚約していたし、将来に備えて王妃教育も受けていた。

 正直言うと、第二王子や第三王子とも婚約の打診はあったんだけど。

 最終的に第一王子を選んだのは……その美貌のせい。

 お母様譲りの輝く金髪に春の空のような澄んだ青い瞳。

 きめ細やかな白磁の肌に、彫刻のように整った目鼻立ち。

 薄紅の薔薇の花弁のような唇から紡がれる張りのあるテノールボイスに、ルクレツィアは即落ちだった。


 ……うん、つまり顔で選んだんだよね、このお嬢さま。

 ま、いいよ。確かに、顔大事。

 王子さまたち、実力的には大差ない。

 みんなそこそこお勉強もできるし、武術やスポーツ、芸術系も平均以上。

 ルクレツィアとの婚姻で血筋も権力もカバーできるとなれば、あとは好きな人選んでも、いいのよ、別に。


 ただね。

 こいつ、クズだからね?

 そういう設定だから、ね。



 そう、つまり。

 ここは、乙女ゲーム「宮廷の青い薔薇園ばらぞの~貴公子たちに愛されて~」の世界。

 そして、ルクレツィアは、いわゆる敵役。

 悪役令嬢ってやつ。


 そして……今。


 クライマックスの断罪イベントの真っ最中に、覚醒してしまった私。


 うん、なんか、どうしよう?

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