第5話 パラレルワールド



気がつくと俺はベッドで寝ていた。


電機ではなく何かの石を使った照明。


壁紙ではなく、白い石で出来た壁。


金持ちの家なら兎も角、こんな部屋は普通にない。


どうやら本当に、異世界セルドグランに来たようだ。


暫く辺りを見ていると三人の人間がドアから入ってきた。


「目を覚まされて良かったですわ、心配していましたわ」


その内の1人金髪の美しい女性がこちらに話かけてきた。


身なりからして他の二人とは違い高級な物を身に着けていた。


多分、王女か貴族の娘だ。


大体の事情は解る…だが俺はあくまで巻き込まれただけ。


だから、知らないふりから始める。


「此処は何処でしょうか? 貴方は?」


「申し遅れました、私はこの国セントハイムの王女マリアンと申します」


「ご丁寧に…俺は…」


さてどうするか? 元の名前は論外。


新しい名前…そうだ『リヒト』それが良い。


「俺の名前はリヒトと申します」


「リヒト様ですか? 素晴らしい名前ですね…それがリヒト様だけ、他の方と様子が違うので、こちらに保護させて頂きました」


「様子が?」


まぁこの容姿だし、服装も変えて貰ったから明らかに違う。


まぁ、すっとぼけて置けば良いか。


「はい、貴方以外の方は黒髪黒目の容姿をしています、それに目を先に覚ました方から話を聞きましたが、皆さんお揃いの服を着ていまして制服というのだそうです…それに誰も貴方の事を知りませんでした」


まぁそうだろうな。


「良く解りませんが、私は誰かと一緒ではなく1人で居ました、そう考えたら、知り合いで無いと思います」


「多分そうでしょうね、余りに容姿が違いすぎます、そのリヒト様のお姿は王族、もしくは貴族に近い感じに見えます」


女神が用意してくれた服は、これにも『女神の夢と希望が込められていそうだ』 まるでどこぞの乙女ゲーの王子様だ。


この辺りは誤魔化した方が良いだろう。


「それが…すみません記憶が所々虫食いで、自分が何者か解らないんです」


「そんな、お記憶が無いのですか?」


「全部、無いわけじゃありません、ご安心下さい」


「そうですか…それなら良かったです…これから暫くして、一緒に召喚された方とお話頂き、一緒に『選定の儀』を行って頂きます…あのですね、もしその結果戦闘に向かないという事が解りましたら、私に仕えて見ませんか? 多分リヒト様は気高き生まれの様な気がします」


これで俺の選択が1つ増えた。


「宜しいのでしょうか?」


顔を赤くしているのは見間違いじゃない…この容姿のせいだ。


「かかか構いません、召喚に巻き込んでしまったのは私のせいですからご安心下さい! 絶対にリヒト様が困るような事にならないように致しますから、ごごご安心を!」



噛んでいるし、この姿は本当に美しい。


それなら…


「宜しくお願い致します、マリアン王女」


「はい、なんなりとお任せ下さい」


マリアン王女は興奮しながら俺の部屋を退室していった。


◆◆◆


しかし、この姿は凄いな…まるで見た感じ、昔の少女漫画の英雄とかが着ていそうな服を着ている。


横になりながら考え事をしていると…ドアがノックされた。


「どうぞ…」


「失礼しますね…」


マリアン王女が連れてきたのは…


俺が一番会いたくない相手、満と静香だった。


「これから先、お会いする可能性がありそうですので『選定の儀』の前にお連れしました」


「俺の名は金城満だ…宜しくな!」


「私は九条静香と申します! 宜しくね」


見ているだけで吐き気がする。


「リヒトです、宜しくお願い致します」


見ていて気分が悪い。


だが、その気持ちを押し殺して対応する必要がある。


「多分、俺たちは接点は無いよな? 俺達は東京の世田谷にある誠雲学園の生徒なんだが…あんたどう見ても日本人に見えないよな」


「そうね、貴方位の美形の男の子が居たら、私の記憶に無いわけないわ」


さてどうするか?


後で会話から『同じ世界』だと解ると不味い。


だったら似たような世界から来た…そう思わせるのがベストだ。


「俺も世田谷にある誠雲学園に通っていました」


「おい、それは無いだろう? 一応聞くが何年生だ?」


「三年生ですが…」


「そんな訳ないわ、それ程綺麗な銀髪の男子が居たら、知らない訳ないよ…そうだ、生徒会長の名前は解るかな…私達の会長は 西園寺 要って言うのよ」


「それなら違いますね、生徒会長の名前はセレスですから、 それに俺が居た学園には黒髪黒目なんて数人しか居なかったです」


「そんな訳ないだろう? それにもし同じ学園なら、俺や静香を知らないわけねーよ」


「ちょっと待ってくれ、君たち有名人なのか?」


「まぁな」


「結構有名なんですよ…私これでも誠雲学園ではお嬢様って呼ばれているんです」


本当に吐き気がしてくるがそれを俺は飲み込んで話をした。


「ですが…やはり俺は貴方達を知らないし…そちらも知らないのですよね」


暫く静香は考えていたが、手をポンと叩いた。


「異世界への転移がある位ですから、パラレルワードもあるんじゃないかな…きっとリヒトさんはそこから来られたのよ」


「そうか、パラレルワールド、それなら説明がつきますね」


上手くリードして勘違いしてくれたようだ。


静香がパラレルワールドについて一生懸命説明していた。


「そうだな…俺もそう言う話を小説で読んだ気がする」


「そういう事もあるのですね…」


結局、俺についてはパラレルワールドの日本から来た。


そう言う話で納まった…まぁ嘘だけどな。





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