第6話勉強は年を取ってからすると面白い


 40代にとって小学一年生の授業は簡単すぎてつまらないと思っていたのだが、案外面白かった。

 足し算、引き算、書き取りなど簡単なのだが先生が生徒にわかるように噛み砕いて授業しているのに教わる部分があった。人生二回目の勉強は先生の教えたい意図を考えながらするのは中々面白い。


 タイムリープしてひと月もするとクラスでは優等生になっていた。

 成績優秀(間違えるほうが難しい)で品行方正(中身は大人なので当たり前)、同級生の男子に難癖(多分天宮と仲良くしているのが原因)つけられたが度が過ぎた子だけは女子と大人を味方につけての対応をしたら、ほかの子たちもおとなしくなった。

 大人の感覚で子供風に対応すれば良い感情を持たれるのは当たり前なのだ。


「何してるのたか君」


 授業も終わった放課後、自分の机に座っていると横から声をかけられた。

 頭を上げて見ると、そこには天宮が俺の机に上にあるものを覗いていた。

 

 最近は私に慣れたらしく、よくたか君たか君と話しかけられる。仲良くなれた事は嬉しかった。


「ああ、これは二年生の教科書で今勉強しているところ」


 数日前に担任の先生に頼んで去年の二年生の教科書を借りたのだ。

 自分が優等生になったのはある程度ちゃんとした理由があれば大人たちがお願い事を聞いてくれるからである。

 復習のために六年生までの教科書とテスト用紙を借りれないか担任に話したら教頭と校長までやってきて説明させられたり、テストも受けさせられたりしたのだが一学年ずつの条件で借りれることになったのだ。

 テストを受けて理解していると判断されれば次の学年の分が借りられるようになっている。

 至極まっとうな条件なので受け入れた。


「ええ!たか君上級生のお勉強も出来るの!?」

「もうすぐで終わるけどね。次は三年生の教科書を借りないと」


 終わらせるのに三日もかかってしまった。ノートに理解してますように書きこむのは難しい。

 

 天宮ははぇーと驚きっぱなしだ。


「んー、たか君は今日の算数わかったの?」

「?ああ引き算ね。できたよ」

「あのねたか君、よくわからなかったから教えてほしいのだけど…」


 天宮は恥ずかしそうにランドセルから算数で使ったプリントを出してきた。

 

「うんいいよ。教えるのも勉強になるし」


 一年生の授業など勉強にもならないが友達が頼ってくれるのだ。これは内心かなり嬉しかった。

 前世の友達も仲良くはなったが、俺は相手から来てもらわないと動かないタイプである。逆に恋人がいたときは暴走して動きまくりで・・・。あ、涙が出てきそう。


 隣の机を寄せてプリントを見せてもらう。

ふむふむ、どうやらケアレスミスが何個かあるようだ。足し算引き算は出来ているが文章問題になると間違える子供は多い。

 自分は一桁の引き算でで間違えることは無いが、小学低学年の算数はどちらかというと文章を読み解く力をつけるためだと思う。リンゴやミカンを店に買いに行き、家で何個食べたら残りは幾つかなど国語の分野だ。

 そこまでわかれば教えるのは簡単だ。

 数字を文章から抜き出し増えたなら足し算減ったら引き算をすればいいだけ、文章全てを見なくてもいいのだ。公式がでてくると別物になるのだが、一年生の解き方としては上々ではなかろうか。

 あとは穴あき問題、答えではなく数式の途中の数字を予想するのは昭和60年代ではほぼ無かったのではなかろうか。普通に解くより面白く理解力も高くなると思う。多分。


 まず、天宮が間違えていた問題の解き方を教える。

 怒らない咎めないように言葉を選びながら教えるのは意識的にしないと難しい。そして理解できてなさそうなら一緒に解いてあげる。


「解けたー!たか君のおかげでわかったよ!」


 天宮が両手をバンザイにして喜びを伝えてくる。

 

 前世の天宮は俺の前では感情を表すことは一度もなかった。男子も見たことがないと言っていたから、俺のせいで男性恐怖症にもなっていたんだろう。

 そんな天宮が笑顔を見せてくれるだけでタイムリープしてよかったと思う。


「じゃあ、次は俺が作った問題を解いてみようか」


 というわけで今日のテストに使用された自分の分のプリントの裏に穴あき問題数問と文章問題を教えている間に書いていた。


「えぇ~今できたのに、またするの~」


 不満げに口を尖らせる天宮。


「では全部正解したらご褒美を出すよ」


 真剣にやり始めたのでやる気は出たようだ。

 子供に意欲を持たせるためには褒めるか物で釣るのがいい。

 まあ間違えていてもご褒美は出すのだがそれは内緒である。

 

 ご褒美は俺特製未来のふわとろ湯飲みプリン。未来趣味の一つである菓子作り、設備があればシュー生地も作れるレベルになっていた。

 昭和にはない食感のプリンだ喜んでくれるだろう。

 男なのに趣味の偏りが女性の方に寄っていた未来の私…あ、なんか涙が出そう。


 落ち込んでいる間に天宮は問題を解き、全問正解でプリンを二個あげることになった。昭和の子供には未来の甘味は刺激が強かった。三つ目に手を伸ばそうとしたときには食べすぎは太ると言ったらピタリと止まった。


 天宮に勉強を教えて一週間後、なぜか俺は先生をしていた。


「先生わかりません~」

「はい俺は先生ではありません。君と同じ小学一年の同級生ですよ」


 手を上げて俺を呼ぶ子のもとに行き詰まっている問題の解き方を教える。

 すぐに他の子が手を上げて呼んでくる。


 どうしてこうなったというと天宮に教えたのが原因であった。

 教えた次の日には天宮が友達にそのことを話して自分も教えてもらいたいと言ってきた。

 別に拒否する理由もないし天宮も喜んでいたので一緒に教えることになった。

 ここまではよかったのだ。だが次の日には二人増え、その次の日には三人増えた。初日数えて一週間後には十人になった。しかも全員女の子。

 …逃げてもいいかな?


 残念ながら逃げることは出来ず。人数が増えたので担任の先生から放課後の教室の使用許可を取り、全員の親から自分が主催の勉強会をすることを伝え子供たちの参加の許しをもらった。

 面倒くさいが許可を得るのは後々の大人の根拠のない否定を断ることが出来るからだ。あれはダメこれはダメと否定するなら根拠を言えっ!

 決して子供好きと思われたくない怯える四十代の心からした行動ではないですよ?


 放課後に一時間の勉強会。最初の三十分はその日の授業でわからなかった部分を教えあって、俺はその補助をするといったところだ。後半の三十分は俺の未来塾式授業初級編だ。


 まず勉強が楽しい、身に着くと周囲から認めれて充実感を得ることを覚えさせることが最初の一歩だと思う。ここで躓くと勉強嫌いで落ちこぼれる率が高くなる。自分の実体験なので、やっておけばあんな馬鹿な生き方を…あ、心の涙が。


「先生~」

「はいはい俺は先生ではありません。君と同じ小学一年の同級生ですよ」

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