笑顔と暴力と恐怖

 父の笑顔が怖い。笑い声が怖い。父が笑った後は毎回理不尽な暴力に見舞われる。父曰く、自分の怒りを抑えるために、無理矢理笑い、家族を殺してしまわない程度に怒りを下げてから、感情を爆発させるらしい。

 ふと幼少期の記憶を思い出していた。目の前の父は白髪にまみれ、痩せ細り、病院のベッドに横たわっている。家族は僕以外全員父から逃げてしまった。僕だけは残り、父の看病をしている。

 柔和な優しい笑みを浮かべ、父は言う。


「酷いことばかりしてごめんな。お前には感謝してるよ」

「大丈夫だよ。父さん」


 と言った後、突如怒りが込み上げる。爆発するように笑い、呼吸が困難になる。父の耳元に口を寄せ、小声で耳打ちする。


「父さん。病院で療養するよりかはさ、家で俺が見るよ。家の方が安心するでしょ」


 家に帰ったら今までの復讐するからさ、と心の中で繋げる。父は嬉しそうに目を細め、「そうか。ありがとう」と涙を滲ませている。


 父さん。人にバレない様に暴力を振るい恐怖を教え込むのはあんたが教えてくれたよ。ありがとう。

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