第18話 スタンピード後の理事会がちょっとだけ荒れたらしい。それとまた新しいジョブをゲットできるかも。

side 御堂 君雄


 スタンピード終息後に開かれた臨時のJEA理事会に御堂君雄は出席していた。


「いったい誰がスタンピードを終わらせたのか、まだわからんのか」


「現在調査中でございます」


 理事の1人、猿渡有人さるわたりありとが理事会の事務局長に聞いている。


「そもそも本当にスタンピードが起きていたのかね?」


「転移石で逃げ帰り報告した探索者の証言に間違いはないと思われます。また、その日と翌日に181階のモンスターの魔石やドロップ品が大量に納品されていました。通常の100倍以上です」


「探索者への聞き取りは行ったのか?」


「もちろん行っております。スタンピードがごく短時間で収まり、死者も一桁台でしたから多数の者に聞き取ることができました。ですが、みな『何が起きたかわからない、気がつけばモンスターが消えて魔石が転がっていた』と言うばかりです」


「広範囲即死魔法か何かではないのか?」


「証言を集めると、広大なフロアすべてほぼ同時にモンスターが消えたものと考えられます。現時点でそのようなスキルは想定できません。未知のユニークスキルの可能性はありますが、それを探し出すのは現実的に不可能と思われます」


「自然現象ではないのだろう? では人為的に行われたとしか考えられないではないか。そのような者がいれば是非とも探し出して表彰すべきだ。総理大臣賞でもくれてやってよいかもしれぬ」


「猿渡理事、えらく人探しにご執心ですな」


 同じくJEA理事である御堂は猿渡に聞く。


「もちろんだとも。まるで物語のヒーローではないか。そのような人材を放っておけるものか」


(まあ、言ってることは間違ってないな。ただしお前の場合は、探して手駒にするか、さもなければ亡き者にするのだろう。露支那の犬め……)


 JEAにも露支那の息のかかった者はいる。

 何せWEA(世界探索者協会)ですらそうなのだ。


 御堂は5人いる理事のうち猿渡が親露支那派であると考えていた。

 金か女か何かの弱点を握られたか、あるいは思想がそもそも露支那に近いからなのかはわからないが。


「猿渡理事、今はとりあえずスタンピード対策の練り直しが先でしょう。久しぶりに起きたせいか、ダン警も国も我々も思うように動けなかった。たまたまが解決してくれたものの、次もそれを期待することはできない」


「今回のヒーローが見つかれば対策にもつながるのではないか。それだけの実力があれば低コストで他国にも恩を売ることができるだろう」


「それは露支那帝国と同じことをするおつもりか?」


「いやいや御堂理事、日本の国益のためですぞ」


「それならばよいのですが。とりあえず、スタンピードを制圧したと思われる原因については継続調査案件ということで」


(お前のような者がいるから翔くんを表に出せんのだ、猿渡め。どうせ露支那から探せと言われておるのだろう)



◇◇◇



 スタンピードをこっそりと解決したあと、僕は連日放課後と土日を使ってダンジョンの攻略を進めていって、400階にたどり着いていた。

 何でここまで来たかというと、御堂さんから他の国の400階で現れたレアボスが『ジョブの書』を確実にドロップするからと聞いたからだ。

 他の国とぼかしてはいるが、いまのところそこまで公式に進めているのは露支那帝国だけなんだけど。


 もちろんここに来るまでは『絶・隠行術』で雑魚を全てスルー、途中のボスは瞬殺。

 なお、錆びた剣のランクを【リバース】すると、Sランクの魔剣グラムに変化したので、この剣でばっさばっさとボスを叩き切っていきました。

 魔剣グラムは、鑑定によると非常に斬れ味が鋭く、使用者が怒りに燃えるほどさらに斬れ味が増すという。

 

 400階のボス部屋にたどりついて、とりあえずボスとご対面。

 なお、念のため転移石を購入しております。

 お値段3000万円。

 おいそれとは買えないよね。

 値段だけあって逃げられないボス部屋からも脱出することができる。


 中に入るといたのは暗緑色をしたでかいサイみたいな獣。

 3階建ての家くらい大きいんだけど。


 鑑定で見てみるとお名前はベヒーモス。

 レベルは2000。


 とはいえ、やることは特に変わりない。

 ただし、相手はデカすぎるので、闘気の剣身を生成する『練気剣』で無理やりこれまたくそ長い剣身を作ってベヒーモスを頭からぶった切った。


 魔石(Aランクだった)を拾って部屋の奥に現れたクリスタルでいったん脱出。

 でまたゲートから400階に侵入してボス部屋に着くが、中には誰もいません。

 クリスタルも現れたままだ。


 そういやモンスターのリスポーンってだいたい30分くらいかかるんだっけか。

 スタンピードのあとは1日くらいかかったらしいけど。


 で、もう一回復活するのを待って部屋に入る。

 その前に、


(【リバース】発動! このフロアのレアボスの出現率を反転する!)


 これでうまくいくかどうか確信はないけど、レアボスっていうくらいだから出現率はたぶん低いだろうと踏んでのことだ。


 中に入るといきなり雄たけびを食らった。

 効きはしないけど、鑑定で見てみると相手は『ベヒーモスリーダー』とあった。

 体色が黒紫のベヒーモスだ。

 あたりあたり。


 そして、ベヒーモスリーダーはこっちに突進してくる。

 さっきの雄たけびは野獣王の咆哮といって相手をしばらく怯ませる効果がある。

 で、怯ませた直後に巨体の体当たりで相手を圧殺するのが得意技だ。


 『練気剣』で真っ二つにしたあと、残ったのは魔石とちょっと古びた感じの本。

 鑑定スキルで見てSランクの魔石と『ジョブの本』。

 『ジョブの本』はAランク、ランダムでジョブを解放する本、とあった。


 とりあえず目的の物は手に入れたから、クリスタルに触れてダンジョンを脱出。

 家に帰ってきて御堂さんに見せることにした。



◇◇◇



「これが『ジョブの書』か…… これも量産できるのだよな……」 


 『ジョブの書』を見た御堂さんが難しい顔をして考え込んでいる。

 何か言いたいことがあれば遠慮なく言ってくれればいいのに。


「この『ジョブの書』に【リバース】を使ってみてもいいですか?」


「ああ、かまわんとも」


(【リバース】発動! ジョブの書をアイテムランクを反転する!)


 そして出来上がったのは、Sランク『レアジョブの書』。

 ランダムでレアジョブを解放するもの。


「これまた恐ろしいものができあがったな……」

 

 たぶん御堂さんも鑑定スキルで見たのだろう。

 御堂さんも【鑑定士】にジョブチェンジし、僕が【神眼を持つ者】に【リバース】させている。


「翔くん、使ってみるのだ。現役の探索者の君にふさわしいだろう」


「はい」


 レアジョブの書を使うと念じると、本が光り始め、その光が徐々に僕に吸い込まれていく。

 光がなくなると本は消えていた。


「どうだね?」


「えーと……」


 ステータスを念じて、ジョブ一覧を頭の中に思いうかべる。

 なんか中二っぽくて強そうなのが増えていた。



 

◆◆◆◆◆◆


【ポープ】 

 ヒーラー系の最上位ジョブ。マスター特典は回復スキルの大幅な効果上昇と常時体力回復。

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