世界は今日も火に焼かれている 2
「先生はああ言ってたが、お前なんか信じてねえぞ」
「アルだって本当は強いんだから! さっきだって私を助けてくれたし!」
「鎌鼬一匹上手く倒したくらいで何言ってんだ。運って言葉知らねえのか、てめえは」
そう言い合う二人を横目にアルマは
「
――
冒険者最初の敵として名高い低級の魔物である彼らは、不快な鳴き声を介し、仲間とのコミュニケーションを取ることができ、村という独自の社会を形成する。本来一匹であれば簡単に討伐可能な魔物であるが、その村と呼ばれる縄張りに立ち入れば、無限ともいえる数の
「てめっ」
二人を差し置いて考え事をしていたアルマに腹が立ったようで、イギルはアルマの胸倉を掴む。
「少し評価貰ったくらいで粋がってんじゃねえぞ。フカンだかフトンだか知らねえが、てめえの指示は聞かねえからな」
「わかった」
静かに答えるアルマは、まるでイギルの言葉に応えているようで先ほどと変わらず、眼中に無いといった反応だった。そんなことをされればイギルは絵に描いたように、腹を立てアルマの頬に拳を突き立てる。
「おい、いつもこいつの後ろに隠れてる奴が粋がってるんじゃねえよ。いつもみたいに何もしないで静かにしてろ」
理不尽な暴力はサリナが黙っていないのは当然で、二人の間に割って入り、二人というより、イギルの前に立ち塞がり、争いを止める。
「今そんなことしてる暇ないでしょ? 私たちは今から助けに行くの。争ってどうするの?」
「こいつが」
反論しようとするイギルの口をサリナは抑え、アルマにもかがむように指示を出す。直後、歩いていた獣道を挟んでいる草むらの奥から不愉快な音が聞こえる。この音に三人は神経を逆撫でさせられるような、背筋を冷たい汗が垂れていく感覚を覚える。この音が何かというのは、恐らくこの三人の全員が認知しているだろう。世界で一番忌避されている音といっても過言ではない
「静かに」
そういうサリナを横目に、アルマはゆっくりと
「おまっ、何勝手なことしてんだ」
動き出したアルマを捕まえようと、手を伸ばしたイギルはアルマの裾を掴んでしまい、不意に思っていなかった方向へ力を流されたアルマは、盛大にしりもちをついてしまう。ドサッという音に
「なんでっ――」
そう声を上げたアルマに対し、イギルは怒りっぽい調子を変えずに答える。
「てめえが勝手なことするからだろ!」
「村から離れていた個体を追えば、村に辿り着けるってなんで気づかないんだ」
呆れたように言うアルマを差し置いて、イギルは武器を取り、
「うるせえうるせえ。やってやるよ。一匹くらい!」
この
イギルの得物は両手斧。長い柄の先についた巨大な刃から繰り出される豪快な一撃は、小ぶりな棍棒を振り回す
イギルは汚い声を上げる
いくら低級魔物だとしても、道具を扱うことを覚えた
まずいと思い、助太刀として腰に差していた短剣を投げようとしたアルマは、
イギルは刃を地面につけたまま、それを支点として柄の先で、
それはまさに格好の的で、今一度体勢を立て直したイギルは、両手斧を上空に振り上げ、
既に息も絶え絶えな
「なんだよ」
「これから群れと戦うことになる。それならこれが必要だと思う」
イギルは恐る恐るその珠を手に取り、それが何かを確認する。
「こいつ武具晶石じゃねえか。しかも
「そんなことはどうだっていい。
汎用性が高く指導者の多い剣や短剣、杖などの武具晶石は集める冒険者が多いために、流通量は多い。しかし両手斧という使用者の少ない武具晶石は使う人が少ないが故に、皆わざわざ稼ぎとして集めようとはしない。だから他の武具晶石より金額は高くなっている。だからこそイギルは絶対にこの両手斧は欲しいはずだった。しかし今まで攻撃的な態度を取り続けてきたアルマに対し、借りを作るのは嫌だった。
「プライドで強さは買えない」
「わかってるよ!」
そう言ってひったくるようにアルマの腕から武具晶石を取り上げた。そしてそれを手で強く握りしめ、自らの魔力を流し込む。すると武具晶石の内側からじんわりと温かな光があふれ始め、見る見るうちに珠はその形を変えていく。一部は細く長く伸びていき、一部は鋭く大きく。そして鮮やかな装飾が施された両刃の斧が、イギルの手には握られる。
――
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