第3話 初陣

「ジョシュア小隊、遅いぞ! 学校の訓練じゃないんだ!」


 ジョシュア達がバトルスーツを装着し集合場所である格納庫に部下達とやって来るとビーグ中隊長からいきなり怒号を浴びせられる。

 確かにジョシュアが着いた時点で他の二小隊は準備万端であり、ジョシュアの小隊が一番遅れて集合していた。


「申し訳ありません。今後気を付けます!」


「何時までも次があると思うなよ。さっさと乗り込め。すぐに出るぞ!」


 ジョシュアの謝罪もすぐに切り上げられ、指示に従い即座に車両に乗り込むビーグ中隊の隊員達。

 ビーグ中隊を乗せた車両はすぐに発進し、セントラルボーデンの中心都市を抜け西地区に向け荒野を走っていた。


「西地区48エリアって言えば保護地区ですよね? なんだってそんな所で爆発が?」


 隊員の一人が誰に対してでもなく不思議そうに呟く。


「そんな政治に関係ないような保護地区狙ってくる奴は野盗かラフィンの残党共だろうよ」


 ビーグ中隊長が眉根を寄せ、吐き捨てる様に言う。


 保護地区にいる者達は、主に能力が開花せず旧人類の能力のままになってしまっている人達だ。

 四百年前のワクチン副作用による人類覚醒期に覚醒出来なかった20%の人々は未だに存在していた。

 そういった人々を古き人々オールドパーソンズと呼び、覚醒した人々が守る為に用意したのが保護地区なのだ。


「いいか、偵察機からの情報によると48エリアにある小さな街で爆発があったようだ。そこには一応駐屯部隊がいるがオールドパーソンズが僅かに武装しているだけだしな。現在連絡も取れていない。様々な情報から敵の存在も想定される。気を引き締めて行けよ」


 ビーグ中隊長が現状得られた情報を皆へ共有し、注意を促していると運転手から急に呼びかけられた。


「中隊長! 三時方向に高速で移動する二機の機影があります。方向的にはセントラルボーデン中心地に向かってます」


「な、何!? き、機種は!?」


「正確な機種は不明! 恐らく四輪タイプと二輪タイプです」


 ざわめく車内にていち早く声を上げたのがジョシュアだった。


「自分達が行きます。行かせてください」


「……よし、わかった。ジョシュア小隊に任せる。いいか無理はするな。足止めで十分だからな」


 時間も無く、即座の判断が求められる場面でビーグ中隊長は謎の機影をジョシュアに一任した。


「ありがとうございます。必ず相手の足を止めてみせます。……ジョシュア小隊出るぞ!」


 ビーグ中隊長に敬礼をした後、部下三名を引き連れジョシュアは車外へと飛び出して行った。


「よし、移動しながら聞け。俺は二輪を追う。お前達三名は四輪を追え」


「隊長一人で大丈夫ですか?」


「お前達三人よりは大丈夫だよ。それに俺より足が速い奴はいるか?……いないだろ? 俺がまず二輪を止めた方が効率いいだろ。わかったな」


「了解!!」


 そう言うとジョシュアは更に加速し二輪を追った。

 ソルジャータイプのジョシュアが一度ひとたび本気で加速するとみるみる目標との距離が詰まる。こういった個の能力の高さもジョシュアが卒業後すぐ、小隊長を任された要因の一つでもあった。


「ん? 電気二輪タイプか……いや、まさか追われてるのか?」


 二輪に迫り、目視出来る所まで近付くとその二台は追う者と追われる者である事がわかった。

 ジョシュアは冷静にこの状況を考える。二台の関係性。もし敵対する者同士なら自分達はどちらにつくべきか?


『……それでもひとまず二輪を止める。場合によってはその後保護かもな』


 そう思い二輪に近付き声をかける。


「おい……」


 しかしジョシュアが声を掛けた瞬間、後方に迫る車両からの銃弾がジョシュアの足元を襲った。


「ちっ、仕方ない」


 そう言うとジョシュアは無理やり二輪の運転手に抱きつき物陰に転がり込んだ。

 運転手を無くした二輪は十数メートル先で炎を上げながら大破する。


 抱きついた瞬間に相手の骨格から相手は女性だという事は即座に理解したが、今は非礼を詫びてる時ではなかった。


「状況を把握したい。お前は誰だ? そしてあいつらは誰だ? 何故追われてる?」


 ジョシュアがそう言うと相手はいきなり胸元を露わにし、ジョシュアに見せつけてきた。


「お、おい!」


 女性の突然の行動に思わず慌てて目を背けるジョシュア。


「わ、私はシエラ。シエラ・モスです。彼らは突然街を襲い、私にこのネックレスを無理やり着けさせて『逃げ切ってみろ』と言ったんです。このネックレスは何か生体反応に反応してるらしく無理に外せば爆発するって言われました。このネックレス中央の数字が0になるまで逃げ続けたら私の勝ちだって」


 そう言われてジョシュアは再びシエラの胸元にあるネックレスを手に取り見つめる。

 確かに中央では数字がカウントダウンをし、残り時間は十分程だった。


『確かに生体反応を感知するタイプだし爆発すれば少なくとも身に付けてる者は助からないな。……だがカウントダウンが終わり0になれば機能を停止するんじゃなくて爆発するぞこれ』


「あ、あのネックレス見てるんですよね? あんまりまじまじと見られるとちょっと恥ずかしいんですけど」


 シエラは眉尻を下げて、申し訳なさそうに微笑んでいた。


「あ、いや、すまない。勿論ネックレスを確認してたんだが、ちょっとややこしい事になりそうだな。ご丁寧に発信機まで付いてやがるし」


 そう言って平静を装い静かに周りを見渡したジョシュアは少しだけ鼓動が高鳴っていた。

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