男の中の漢

そのいち

~まえおき~


 俺は男だ。

 男の中の男だ。

 「漢」と書いて「オトコ!」とルビをふるくらいに、俺はオトコ!だ。


 好きな食べ物は白米だ。

 余計な味付けは一切不要で、白米のみをバクバク食す。


 下着は白のブリーフ一択だ。

 幼い頃にこれと決めたのだから、生涯これを貫き通す。


 就寝時間は9時半と決めている。

 どんなに疲れていなく、微塵も眠くなかろうと、俺は9時半には床に就く。


 そんな男の俺にでも、苦言を呈したい男がいる。


 その男は、優柔不断で、女々しく、卑屈で、甲斐性のない、呆れた小男だ。


 その男の楽しみは、スタバの「ダークモカチップクリームフラペチーノ」を得意気に「ホイップ多め」で注文すること、それを生きがいとしている。


 その男の名は「金剛力士 アヤメ」という。

 著しくも名前負けが甚だしい。




・.*~*~*.・




「コラっ! 金剛力士アヤメ、なにをうじうじしている! それでも男か!」

「いいんだよ、どうせ僕なんか。うじうじしていた方が性に合っている」

「情けないヤツめ、男のゲンコツでも喰らいたいか!」

「暴力はやめてよ! 暴力反対! 暴力反対!」

「だまれ! これは暴力ではない。情けないお前に喝を入れるんだ! 喰らえ、男のゲンコツ!」

「痛い、痛いよ! 酷いじゃないか! 暴力だ! 明らかな不法行為だ! SNSで拡散して炎上させてやる! そして僕は沢山の『いいね』をもらうんだ!」

「そんな卑怯な脅しにこの俺が屈すると思ったか! お望みなら本当の暴力も辞さないぞ!」

「わ、分かった! ごめん、ごめんなさい! もう沢山の『いいね』は諦める!」

「うじうじも止めるか!?」

「うじうじも止める!」

「うむ、よろしい。いいか? たかだか女子に話しかけられて、返答に詰まった程度で三週間もそれを引きずるな」

「そんな簡単な問題じゃないんだよ。その女子は僕に話したんじゃなくて、別の男子に話しかけていたんだ。それを勘違いして僕は返事をしようと……」

「だが、言葉に詰まって返事ができなかったんだろう? それなら何事もなかったも同然だ!」

「でも僕は反応してしまった……。彼女からしたら、『何コイツ? 話しかけていないのに反応している。キモチワルイ、シンデホシイ』と、思ったに違いない……」

「うじうじするな! 男のゲンコツでも喰らってろ!」

「痛い!」

「仮にその女子がそう思っていたとしても、お前みたいな男のことなんてすぐに忘れている。気にも留めていない」

「それはそれでちょっと悲しいけど、確かにそうかもしれない……」

「だからお前も忘れろ。うじうじ悩むな。お前だって『男』だろう?」




・.*~*~*.・




 そう、その通り、僕は男だ。僕だって男だ。


 好きな食べ物は白米だ。

 白米だけをバクバク食べるのを、ばあちゃんに褒められたから好きになった。ばあちゃんの作るおかずは野菜が多すぎて食べたくなかっただけだけど。


 下着は白のブリーフ一択だ。

 幼いころにその下着姿を馬鹿にされ、「持病の関係で仕方なく履いている」と、咄嗟に吐いた嘘のせいで、これを続けざるを得なくなった。


 就寝時間は9時半と決めている。

 9時半に床に就き、映画やアニメの考察をする。時にはエッチな妄想もする。いや、むしろエッチな妄想が大半だ。僕はエッチな妄想が大好きだ。これはライフワークに位置づけられる。


 僕の自慢は、スタバの「ダークモカチップクリームフラペチーノ」を「ホイップ多め」で注文すること。姉からこの特殊な注文方法を学んだので、友人たちに披露したら尊敬された。しばらくあだ名が「ホイップマン」になったのが嫌だったが。


 こんな僕でも男だ。

 僕の中にも男がある。

 「漢」と書いて「オトコ!」とルビをふるくらいのオトコ!が、僕の中にもいる。


 優柔不断で、女々しく、卑屈で、甲斐性のない、小男の僕だが、こうして内なるオトコ!と問答することで自分を保てている。


 これが僕みたいな男の生き様だったりする。


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