第2話 隣人はクラスの美少女ギャルだった


「なっ……」


 頭に血が上っていた俺は一気に冷静を取り戻していた。

 何日も風呂に入っていないような汚い中年おっさんを想像していたが、目撃したのはそれとは真逆の金髪美少女ギャルである。

 ノーブラでタンクトップに短パンというラフな格好で大きめのメガネを掛けていた。


「ど、ど、ど、泥棒! 乱暴は辞めて!」


「いや、違う!」


「何が違うのよ。人の家に上がり込んで。もしかして私のリスナーさん? 不法侵入はやりすぎよ。警察に電話しなきゃ」


 金髪美少女ギャルはあわあわと自分のスマホを手に取る。

 トラブルを避けたい俺はスマホを奪うように抵抗する。


「辞めてよ。泥棒!」


「待て。俺は泥棒じゃない」


「どのみち不法侵入しているじゃない。充分に警察に言う案件よ!」


「だから俺の話を聞けって!」


 金髪美少女と揉み合いになってしまった直後である。

 俺は足を引っ掛けてしまい、金髪美少女に覆い被さる形で倒れこんでしまう。

 反動で金髪美少女のメガネが飛んでしまい、目と目が合う。


「も、もしかして冴島くん?」


「え? 兼近さん」


 金髪美少女の正体は同じクラスの兼近亜津葉かねちかあずはだ。

 進学校には珍しい金髪ギャルで気まぐれな性格だ。

 学校では常に眠そうで遅刻、早退、無断欠席などやりたい放題で有名だ。

 クラスでは学校の外で遊び歩いているとか裏で怪しいバイトをしているなど噂になることはしばしば。

 変な噂があるのは傷だが、学校ではトップクラスの美少女としての人気は高い。学校で付き合いたい女子としてまず候補に上がるのが兼近亜津葉だ。

 俺も気になる存在として見ていたが、彼女とまともに喋ったことはない。

 と、いうよりも気まぐれで学校に来る彼女と喋る機会がないのが正直なところ。ただのクラスメイトの一人として接している程度に過ぎない。

 そんな彼女が俺の部屋の隣人だったのだ。


「って、やば。切らないと。皆、ごめんね。ちょっと用事があって今日の生配信はここまで。また見てね。バイバーイ」


 兼近さんはパソコンのマイクに向かって呼びかける。

 誰に向かって話しているんだ?

 ゲームの音が無くなり静まり返った部屋で兼近さんは物凄いけんまくで俺に詰め寄った。


「あなた。よくも私の秘密を知ってくれたわね!」


「秘密? 何の話だ?」


「とぼけないでよ。私がVtuberっていう秘密を!」


「Vtuber?」


 確か、Vtuberとは動画投稿サイトで様々なジャンルを配信する人のことだ。

 普通と違うのがアニメや漫画のキャラクターのガワを被って2Dで配信するものを『バーチャルYouTuber』通称『Vtuber』というらしい。

 今では職業として生活をしている人もいるほど有名な職種とも言える。

 たまに動画投稿サイトで解説を見ながら勉強するのに利用することもあるが、その実態はよく分かっていない。

 俺とは縁のないものだと軽蔑していた。


「はぁ、学校では秘密にしていたのにまさか同じクラスの冴島くんに知られちゃうとは私も運が悪い」


 落ち込むように兼近さんは膝と肘を床に付ける。


「別に知ろうとして知った訳じゃ……」


「ところで冴島くんはどうしてここにいる訳? それが一番謎なんだけど」


「俺の部屋はこの隣だ。毎晩、毎晩うるさくて勉強に集中できないからクレームを入れようと乗り込んだら兼近さんがいただけだよ」


「クレーム? あ、もしかして音が漏れていた? ごめん。気付かなかった」


「いや、別に構わないよ。音さえ漏れなければ。それより色々気になる点がいっぱいあるんだけど」


「だよね。この際、冴島くんには包み隠さず何でも言うつもり。その前に私の秘密は誰にも言わないって誓ってくれるかな?」


「勿論、誰にも言わないよ」


「良かった。何でも聞いていいよ」


「ありがとう。まず気になったのは兼近さんが普段から学校に来なかったりするのって全部これの影響?」


「えへへ。その通り。いやー生配信する時ってどうしても深夜の時間帯の方が視聴者多いんだよね。それに合わせるとどうしても朝になって学校に行けないんだよ」


「いや、俺の感覚から言わせてもらうとそれはおかしいよ。学業とそのVtuberってやつどっちが大事な訳?」


「当然、Vtuberに決まっているじゃない」


 何も迷うなく兼近さんは答えた。


「当然って兼近さん。このままいくと単位が足りなくて留年どころか中退だってあり得るんだよ。少しは現実を見ようよ」


「まぁ、一般的に考えればそう思うよね。でも、私は学歴なんて正直関係ないと思っている。学歴よりも私は今の活動で食っていくつもりだから」


 兼近さんは眩しい笑顔を見せた。本気でVtuber一本で生きていく覚悟を感じさせた。

 男女で考え方が違うように兼近さんは俺の考え方よりも斜め上をいく考え方をしていた。それはそれで関心をする自分がいた。


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