第52話 第2防衛拠点

 ダジール女王率いるドラゴンライダー部隊は王都を出て2日目の昼前に第2防衛拠点にたどり着いた。そしてそのダジール女王達が上空から見たのは壮絶な光景であった。

 それは長さ2kmほどある大きな岩を積み重ねた防壁に群がる黒い物体。その数は300を越えている。そしてその黒い物体に防壁の上から弓や魔法、そして投擲で対応する騎士団。あと防壁の攻撃穴から長槍で突き倒している騎士団も居た。


「聖女様、よく見ておいてくれ。あれが狂暴種だ!」


 先頭を飛ぶダジール女王が後ろを振り向き大きな声で春香達に伝え、その春香達は初めて見る狂暴種と戦闘に言葉を失っていた。


「まだあれは銅級だ。数は多いが騎士団にとって問題ない相手。今のうちに地上に降りて合流するぞ!」


 そしてダジール女王達は防御壁から離れた位置に幾つもある大きな天幕付近に舞い降りた。それから飛竜から降りた聖女達とカリーナを引き連れて一番大きな天幕へと向うダジール女王。そしてその天幕に入ると中には8人の騎士がテーブルに地図を広げ話をしていた。


「総武王自ら援軍に来たぞ」


 天幕に入りその8人が囲む大きなテーブルにそう言って加わるダジール女王。そして春香達もその中に加わった。


「ダ、ダジール女王陛下!何故ここに来られたのですか!ここは危険な場所ですぞ!」


 ダジール女王が突然現れたことに驚く8人の騎士達。そしてその中で一番細身で高齢と思われる男がダジール女王に声を掛けた。この男は第3騎士団隊長のワインズで、この第2防衛拠点のリーダーである。そのワインズの問いに対して皆を安心させるよう静かにだか心に響く力強い声で答えるダジール女王。


「第2騎士団カール隊長からの援軍要請でやって来た。7人の聖女様と新設したドラゴンライダー部隊と共にな。そしてまだ時間は掛かるが騎士団約1,000人と銀2級以上の冒険者達も援軍としてやってくる。それまで我々でこの第2防衛拠点を守りきるぞ」


 そして皆の顔をゆっくりと笑顔で見ていき8人の男達に『希望』を与えるのであった。それで男達の目に新たな闘志を燃え上がらせたダジール女王は『心のゆとり』を追加することも忘れていない。


「まあ、総武王の私が来たからには後から来る援軍は後片付けをするだけになるだろうがな」


 そうおどけて言うダジール女王にテーブルを囲む8人の騎士たちは笑顔を見せた。


「はは、その性格は相変わらずですな。ですがこれで我が騎士団の連中も今以上に奮い立ち戦うことでしょう。そして貴女方が伝説の7人の聖女様ですね。よくぞこの戦地へと足を踏み入れてくださいました。私は第3騎士団隊長のワインズと申します。そしてこの第2防衛拠点のリーダーを任されております。我々騎士団一同は心からの感謝を申し上げます」


 そう言って右手を胸に掲げ頭を下げ、略式で感謝の意を表すワインズ。そして残りの7人も同じ様に右手を胸に掲げ頭を下げていた。


「ああ、聖女様には感謝してもしきれない。早くこの戦いを勝利で終わらせ、この第2防衛拠点で盛大な歓迎式典をやろうではないか」


「ほほ、それはいいですな。孫への自慢話になりますぞ!」


 そう言って笑い合うダジール女王とワインズ。それを見て上手い演出だと感じている朝比奈春香が居た。そして場の雰囲気が良くなった所でダジール女王が話し出す。


「それで状況はどうなんだ?」


 その問い掛けには第2騎士団副隊長のランブルが答えた。


「ダジール女王陛下、第2騎士団副隊長のランブルです。トムソンが無事役目を果たしたことに嬉しく思い、そしてダジール女王陛下、そして7人の聖女様に来て頂き感謝致します。

 それで状況ですが、第一防衛拠点は完全に放棄し団員はこの第2防衛拠点に合流しております。ただ、移動中に銀下級狂暴種の集団に強襲にあって多くの団員が負傷しました。ポーションの大半は救援部隊に渡しており治癒魔法師の治療のみとなった為、魔力不足により全ての団員を治療することが出来ず怪我が悪化し、今も苦しんでいる者が居ます」


 そこで一区切りと判断した春香がランブルに質問をした。


「あの、その狂暴種に等級があるようですが簡単に説明して頂けるでしょうか」


 その春香の問いに答えるのはダジール女王だ。


「ああ、それはあれだ。冒険者に銅、銀で5級から1級であと金、ミスリルと等級分けしているが、それを少しだけ簡略化したものなんだ。

 それは銅下級、上級。銀下級、上級。金級、そしてミスリル級の6段階でその狂暴種の総合的な強さを表している」


「理解しました。説明ありがとうございます」


 そう言って春香は他の聖女達が理解しているかを確認しランブルに目線で続きを促した。そのランブルは春香を見て頷き続きを話す。


「それから戦闘を行いつつこの第2防衛拠点まで戻るとその銀下級の集団は深追いせず何処かへと戻って行きました。そして我々第2騎士団はここに居る第3第4騎士団と合流し防衛を始め今に至るところです。

 その狂暴種は現在銅下級と上級の集団が昼夜問わず交代でこの第2防衛拠点の攻撃を目的としてやって来ており、我々も騎士団を6つに分け応戦しております。その人数は戦闘員が186名、補助員が62名で総数248名です。そしてその内負傷者が16名全て戦闘員です。今は治癒魔法師の治療も現場で軽い怪我をした者を戦線復帰させることに重点をおいており、動けなくなった者達に対しては満足な治療をしてやれておりません。そしてポーションはまだ在庫がありますが、飛沫の問題や長期戦に備えて使用を極力控えております」


 その話を聞いた春香は思う。


(戦闘員は1チーム約30人。それをどう振り分けているのか判らないけど、いくら防衛戦の方が有利だと言ってもこの人数は少なすぎる。

 そしてこの防衛拠点はとても広くて長い。どうやってこの少ない人数で対応しているのだろう?)


 予想より厳しい現実に頭を悩ませる春香であった。

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