第36話 赤と藍の聖女とダジール女王陛下

 フリンデという愚か者が私の友達を騙そうとした。私の居ない隙を狙ったのは良かったけど私の部屋で実行するなんてバカな男だ。本当に愚か者で助かったわ。


 あれから私達はフリンデ子爵とステラ神官助手の2人から全てを聞き出し、そしてドアの外で見張りをしていた兵士にザビル神官長を呼んでもらった。その見張りの兵士はフリンデ子爵の話術で洗脳されていたけど美琴の能力で解除したわ。

 そして今は王座の前で兵士に押さえ付けられザビル神官長に尋問されているフリンデ子爵とステラ神官助手をダジール女王陛下と一緒に忍と2人で見ているの。あの2人が私達に話した事と矛盾した所がないかを確かめる為に。


「それでは聖女様を騙しバンデル王国に連れていこうとした事はマジルート様が全て企てた事だということですか?その他に関係している人物は居ないと?」


「はい、私が知る限り他に関与している者は居ません」


 フリンデ子爵がここで話したことは私達に言った内容と比べても矛盾は無く嘘をついているようには見えない。でもマジルートという男が全て1人で企てたとは考えられない。

 ということはこの男は全容を知らないのだ。ダジール女王陛下から聞いたマジルートの性格は武力第一で卑劣な性格をしているそうだ。たぶんに頭の回転は悪くないのだろう。情報が漏洩しないよう管理を徹底しているみたいだ。


 それからも尋問は続き、終わった時には深夜になっていた。そして結論としては、このフリンデ子爵は話術スキルを見込まれて聖女を自国に連れて戻る事を命令されただけの駒だということだ。あと一緒に居たステラ神官助手については結局よく判らなかった。(なにか忍は知っているような感じだったけど‥‥‥)


 そしてフリンデ子爵とステラ神官助手は城の地下にある牢屋へと連れていかれた。フリンデ子爵にはスキル封じの腕輪をはめてね。

 それから私達はザビル神官長の案内で広くて立派な応接室へとやって来た。ダジール女王陛下も着替えてから来るそうだ。


 私と忍は横に並んで豪華なソファーに座り、メイドさんが準備してくれたハーブティーを飲んでダジール女王陛下が来られるのを待っている。ザビル神官長はこの応接室に案内したあとフリンデ子爵の様子を見に出ていったからだ。


「忍、眠たくない?」


 いつも眠たそうな目をしてるので表情からは読み取れない。まあ現代っ子だ。朝方まで起きてる事もよくあるので大丈夫でしょう。


「私は今睡魔と戦ってる。でも負けそう」


「そ、そうなの‥‥‥」


 この子に常識は通じなかった。


 それから5分ほどしてダジール女王陛下が現れた。王座では威厳を示して豪華な服やマントを纏っていたけど今は騎士服のようなものを着ている。そのダジール女王陛下は私達の前にあるソファーに座り、メイドさんが持ってきたハーブティーを受け取り一口飲んだ。そして姿勢を正したかと思うと私達を見て頭を下げた。


「赤の聖女様、藍の聖女様、危険な目に会わせてしまい誠に申し訳ない。警戒は十分にしていたのだが、まさか最高レベルの話術スキルを持つ者だとは思わなかったのだ。

 見張りの兵士は腕利きだったが、まさかバンデル王国の使者が悪事を企てるとは思ってなかったようで油断して洗脳された。

 このような失態は許されない。2度と起きないよう警戒方法の見直しを行うよう指示を出した。そして洗脳された兵士は降格し一般兵からやり直しさせ厳しい訓練を課した。どうかそれで許してやって欲しい」


(まず私達に謝りそして原因と対策。最後の部下の処分については心あるものだった。ダジール女王陛下はどうやら人格あるいい人みたいね。あとは政治の手腕がどうかだけど)


「ダジール女王陛下、まずは頭をおあげください。謝罪はしっかりと受け取りました。今回については誰も被害を受けていません。なのでそれほど深刻に構えなくても私達は大丈夫です。

 見張りの兵の方についても期間を設けて元の役職に戻してあげてください」


 私がそう言うとダジール女王陛下は頭を上げてニコリと嬉しそうに笑った。


「そう言って頂けると私も助かる。いつもは内情を知る選りすぐりの隠密部隊に監視させてたのだが間が悪いことに全員出払っててな。私の采配ミスだ。申し訳ない」


(人のせいにして言い訳しない姿勢も好印象だわ。状況把握するまではダジール女王陛下を信じて行動するとしましょう)


「もうその事は終わりにしましょう。それで今後の予定ですが、城下町でのパレードは一週間後、それまでに私達はこの世界の常識を学び聖女の能力を確かめ鍛える事でよかったですよね?因みに明日の午前は不治の病を患う人を十数人ほど招き入れ、この城内で治癒を試してみると聞いています。間違いないですか?」


 私は今後の予定を確認する。何故なら計画変更を度々されるようでは困るから。


「ああ、それで間違いない。それでその聖女様の対応は全てザビル神官長がする。あと警備に隠密部隊の者を数名付ける予定だ。その隠密部隊の紹介はしないが許してくれ」


 そう言ったダジール女王陛下は私の横で船を漕ぐ忍に目をやった。その目は娘を見るような優しい目をしていた。


「藍の聖女様は眠たそうだな。もう遅い時間だ。今日は本当に済まなかった。明日からもよろしく頼む」


 そう話を切り上げようとしたダジール女王陛下。だけど私は聞きたいことがあるので待ったを掛けた。私に必要なのは情報だから。


「すいません。あと少しだけ時間を下さい。バンデル王国とはどんな国なんですか。あと出来ればマジルート様の性格と今まで行ってきたことを詳しく、それとバンデル王国での立ち位置を教えてもらえませんか?」


(私はどうしてもマジルートという男の事が気になるの。これから私達に悪影響を与える存在だと私のカンが言ってるの)


 その私の言葉を聞いて真剣な表情になるダジール女王陛下。少し上げていた腰を再び下ろしメイドさんに軽食と飲み物を頼んだ。


「赤の聖女、朝比奈様。あなたは鋭い観察力と柔軟な考え方が出来るお方だな。そして藍の聖女、神無月様。あなたも洞察力と場の流れを読み取る事が出来るお方とみた」


 私は隣で船を漕いでいた忍を見るといつの間にか真剣な顔をして私達の話を聞いていた。(我が友の忍。頼りにしてますよ)


 それからダジール女王陛下は続きを話す。


「それならばこの国の内情をお教えしましょう。そして私の味方となり出来れば手を貸して頂ければ嬉しく思います。少し話が長くなりそうなので軽い食事をしながらにしましょう」


 そうして私達3人は朝方までこの応接室で話をする事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る