第9話 ラバニエル王国の現状

 大きな湯船に浸かるダジール女王陛下が私にこの国の現状を話してくれた。


「我が国ラバニエル王国は、この王都に6万人とその他の都市、街、村の人々を合わせて約30万人ほどの小さな国だ。だがその土地は豊かで農作物は他国に輸出するくらいに豊作で色々な物を栽培している。

 そして鉱山もあるので鉄や銅はもちろん、宝石類やミスリルも採掘出来るのだ。あとこの国は海に面してはいないが岩塩が多くあるので塩に困ることもない」


 他国に頼ること無く全ての物資が手に入る自国が自慢なのか、ダジール女王陛下の切れ長の目が少しだけ優しそうに見えた。


「私はこの国を愛している。そしてこの国に居る全ての民も大切に思っている。だがその大切な民が今、困難に見舞われているのだ。

 それは数年前から増え続けている凶暴種の魔物の存在で、普通ならば森の奥深くから出てくる事は滅多に無いのだが、それが森から出て街や村を襲う被害が増えているのだ」


 先程まで優しそうな目をしていたが、今はもう悲しげな表情の一部に変わっていた。そして私に助けを求めるように訴え掛けてくる。


「この王都の近くには大きな森が無いので被害はほとんど無い。だがここから西に馬車で2週間ほど行った先にある『聖女の森』と呼ばれる広大な森付近の街や村は大きな被害を受けている。だから今も我が国の兵士達が国民を守る為に血を流し戦っているのだ」


(そうなんだ。だから私達を召喚して、その手伝いをさせたかったのか?でもザエル神官長は原因不明の病気を治して欲しいことも言ってたよね?)


 私はその疑問をダジール女王陛下に聞いてみる事にした。


「あの、私達はその魔物を討伐する兵士達の補助をすればいいのですか?それとも原因不明の病気に犯されている国民の治療をすればいいのですか?」


「その両方だ。7人居る聖女の中で戦闘向けの特殊能力を持つ者は兵士達の元へ、そして残りの聖女は病気の国民を治癒してもらおうと思っている。もちろん聖女が納得した上で、この世界の事を色々と知ってもらい能力を使いこなせるようになってからだがな」


 そう言うダジール女王陛下の目に嘘は無い。その隣に居るカリーナさんもだ。私はダジール女王陛下が無理矢理に従わせようとする意志が無いことにホッと胸を撫で下ろした。

 だが、そんな私に済まなそうな顔をして、まだ続きがあるんだとダジール女王陛下は話し始めた。


「それで少し面倒な事もあってな。聖女には苦労を掛けるかもしれない。それは一部の貴族達の事なんだが、お前達を取り込んで権力を得ようとする者が居る。

 我が国は7人の聖女が舞い降りた国として今も語り継がれ、その聖女人気は絶大だ。ここは小さい国だが国力もあり潤っている。だからもっと土地を増やしてより豊かになろうと周りの国から土地を奪おうと考えている奴ら貴族が少なからず居るのだ」


(聖女を取り込み国民から支持を得て、権力を増やし戦争を始める気なのかね。周りの国が好戦的かどうか知らないけど、せっかく豊かで幸せに暮らせてるのにバカな貴族が居るもんだ。それでどれだけ国が疲弊して国民が死んで行くのか判らないの?苦戦すること無く勝つことしか考えてないんだろうなぁ)


「なんとなく状況は理解しました。それとこの国には原因不明の病気を治癒出来る魔法使いは居ないのですか?それとも聖女しかその病気を治す事が出来ないのですか?」


 私はもう一つ気になっていた事をついでとばかりに確認した。


「それも奴らが少し関係している。この原因不明の病気だが我が国の医者や研究者でチームを作り、原因の究明と治癒方法がないかを調べさせている。そして判った事もあるのだ」


(ん?一部のバカ貴族がここでも何かやらかしてるの?)


「この病気は西の『聖女の森』から飛んでくる花粉のような飛沫を吸い込む事で発病する。そしてその飛沫が体内に蓄積する場所によって起きる症状も様々なものになるのだ。

 それは酷い熱と頭痛だったり、突然足が動かなくなる者、体の間接に痛みを感じるなど様々だ。そう、サーシャのようにな」


(ああ、カルビーンお爺さんと酒飲み友達だから、お嫁さんのサーシャさんの事ももちろん知ってるんだね)


「そして我が国の魔法使いが使う治癒魔法では体内にある飛沫を除去する事は出来るが発病した後では治す事が出来ない。あと薬草やポーションも試してみたが無理だった。効果の高い物であれば飛沫の除去は出来るようだがな。

 だから己や身内が病気にならないように治癒魔法が使える魔法使いを囲い込む貴族が増え、この国の治療院には治癒魔法使いが少なくなってしまった。その為に薬草やポーションの需要が増え価格が上がり、貧しい暮らしをしている者は買えなくなり病気の発病率が高くなってしまった。とても辛い現実だ。

 あと、教会には治癒魔法と同等の『癒しの祈り』が使える神官が居て、貧しい人々に施しをしているが使える回数も限られていてるから全ての人を助けることは出来ないのだ」


(うーん、治癒魔法、薬草、ポーションは病気の予防は出来るが治療する事が出来ない。そして薬草、ポーションでは効果が薄く病気になる可能性があるという事か)


「凶暴種の魔物の対応だけでも大変なのに、治療出来ない病気まであるんですね。聖女の治癒魔法でその病気が治ればいいですけど」


 私はどう対応すればいいのか考える。出来れば困っている人は助けたい。でもそれで私の身に危険や被害を受けてまで助けるつもりはない。少し冷たいようだが我が身が一番だ。私はお人好しではあるが偽善者では無い。

 そして貴族に取り込まれないようにする必要もある。だから無闇に能力をさらけ出す様なことは控えるつもりだ。


「聖女の治癒魔法がこの病気に効くかどうかだが、明日病人を数十名城に運び込み、7人の聖女に試してみてもらう予定だ」


「ん?私は居なくていいんですか?」


 またしてもボッチ扱いするダジール女王陛下。いったい何を理由にそうするのだろう。


「それなんだが、この国の民は魔物の脅威と不治の病で身も心も疲弊している。だから伝説の7人の聖女を利用して活気を取り戻す。

 近々王都でパレードをし、その話を国中に広げる予定だ。その為にその聖女が8人召喚された事は伏せて起きたい。判るだろ?」


(あー、そういう事ね。まあ私もその方が気が楽でいいか。ボッチだけど‥‥‥)


「まあ判りました。それなら私は1人自由に動き回りますよ?もちろん聖女としてではなく、普通のそこら辺に居る女の子としてです」


 ダジール女王陛下は少し考える素振りを見せたが「判った」と頷いた。これで私は晴れて自由の身。なのかな?


「奏には今まで通りカリーナを専属メイドとして側に付ける。何か必要なものや行動したい事があれば彼女に相談してくれ。

 それでは今日の謁見はひとまずここまでとしよう。勝手な事ばかりで申し訳ないが、どうかこれからも宜しく頼む」


 ダジール女王陛下はそう言って湯舟から上がりカリーナさんと共に浴室から出ていった。


(えーと、私は1人で部屋まで帰れと?そんなことすると私はあちこち見て歩くよ?)


 私はその後お風呂から出て服を着替え、「さあこれから城内の探検だ!」と、気合いを入れたところで戻って来たカリーナさんに捕まり、何事もなく部屋まで戻った。(ちくせう‥‥‥)

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