第1話

 深夜2時、都内S区に車を走らせる1組の男女がいた。男の方はいかにもドラマに出てくる中年の刑事といったいでたちでスーツを着ているが、女の方はというとパジャマ姿だ。顔立ちもひどく幼い。はた目から見るとこの2人は親子かパパ活女子とパパにしか見えない。


「ちょっと、車の中でタバコ吸うのやめてくれます?」

「窓は開けてあるだろ」

「開けてても匂うんですぅー」


 ニカは中島を見もせず化粧を始めている。


「今回の任務に化粧は必要なのか?」

「何言ってんですか、もし私が今回の任務で死んじゃって、お化粧してなかったら、私、すっぴんのまま死ぬことになっちゃうじゃないですか」


 ニカの顔にはいつの間にか眉毛ができて、鼻に立体感が出てきている。寝ていたのを無理やり起こして出てきた時の顔とはもはや別物だ。


「あと5分で着くぞ」

「はーい」


 ニカはいかにもめんどくさそうに相槌を打った。ニカにとって中島の小言よりも、マスカラで睫毛まつげにダマができないかどうかの方がよほど重要なことなのだろう、手鏡から目線をそらさない。

 中島は会話を諦め、タバコを深く吸い込み一気に煙を吐き出した。


「ねえ、だからタバコ吸うのやめてって言ってんじゃん」


 中島はニカに返事はせずに車の窓を全開にして目的地まで急いだ。

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