ヤドリギの呪い


 僕の呪いについて一つの結論を出してから二ヶ月後、周りから人が消え一人で過ごすのに慣れた頃にそれは起きた。


 急病で入院し、余命幾ばくと告げられた祖父が


「とっとと死にたい」


と嘘をついた。


 嘘を見破れるのも分かってた、感情を爆発させると呪いを植え付けてしまうのも分かっていた、その制御のために感情をコントロールする訓練は受けてきた…………それでも、暴発を止めることはできなかった。


 考古学者ではなかったけど、祖父のことは好きだったし尊敬していたから少しムッとしたのは確かだ。


 でも予想できるはずがない。



 たったそれだけで、人の命を奪ってしまう結果になるなんて……。


 ヤドリギの呪いが複数の効果に隠れて人の命をも奪ってしまう呪いだったなんて……。



「蓮陽、オマエは……なんて…………」



 あの瞬間の祖父の血走った目を忘れられない。最後に何を言いたかったのか、その続きを想像して傷付くことをやめられない。


 両親からも何かを奪っていた感覚があったことから、直接相手の命を奪うのではなく寿命や生命力を奪っていく呪いであること、嘘には重さがあってその重さ次第では感情の振れ幅が小さくとも呪いを発動させることがあるということ。


 全てが手遅れになってやっと牙を剥いたヤドリギの呪いの凶悪さ。

 みんなが「事故だ」と、「君は悪くない」と優しい言葉をかけてくれるほど、僕の心は深く、暗く、濃く呪いに浸食されていく。


 その言葉が嘘ではなくとも、僕との間に大きな壁を建てその向こう側の安全圏から哀れな動物に声をかけているだけに過ぎなかったのだから。


 そして時間と共にヤドリギの呪いの情報が広まるごとに、壁を隔てるどころか僕の周りからさらに人が遠ざかっていくようになっていった。それどころか付いた尾ひれに恐怖してこちらから近づくと畏怖の念を込めた表情を向けられ拒絶されるようになっていったのだ。


 関わらなければ傷つけるとこもない。だからむしろそれでよかった。

 そう自分に言い聞かせ、完全に心を閉ざして他人との関わりを絶ってしまおうと何度も考えた。


 けど、それをさせてくれない人たちがいてくれたおかげでなんとか人のままでいられた、と思いたい。


 そりゃあ人間不信にもなったし、人から話しかけられることもなければ自分から話しかけることも無くなったから誤解は広がるばかりだし、それを弁明する能力もなくて今みたいな状況にはなったけど、それだって漢太が少しくらい協力してくれればなんとかなったかもしれない話だし……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る