第6話 かわいい子


「私、もしかしていつもの悪戯かと思ったのよ。それをまぁ、アドラン様が勘違いなさったのかなって。間違ってはいなかったけれど」

「あの人が勘違いしたのはそうだけど! 私悪戯なんかしてません!」


 アイリーンは身を乗り出してきた。

 それをなだめるようにアイリーンの頭を撫でる。ふわふわ、さらさらとした髪の触り心地の良いこと。

 こればかりは本当に羨ましかった。


「だって私、お姉さまのこと大好きなのよ! そんな悪趣味なことしないわ」


 とのこと。

 つまりこの姉妹はそうとう仲がいいのだ。アドランが思っている通り、姉は妹の為ならなんでもする。

 ただし彼はわかっていなかった。

 妹がシスコンだということを。


「わかったわ。彼が勝手に盛り上がって、勝手にやらかしたってことは」

「本当にわかってくれた?」

「ええ。でもなんでアイリーンと愛し合ってるなんて勘違いしたのかしら」


 アイリーンを見ると、嫌そうに顔を歪めていた。


「なに? その顔は」

「愛し合ってるとか気持ち悪いこと言わないでよ」


 とこれまたバッサリとした言葉である。


「でも彼はそう思っていたみたいだけど」

「ううう。嫌だわ。私ただ、未来の義兄として慕っているって言ったの。それだけよ。お姉さまについて話したいっていうから、彼と二人で話してもいいかなって思ってたのに……」


 今度はオフィーリアが顔を歪める番だった。


「未来の義兄……なんだか嫌な響きだわ」


 すくなくとも彼のあの恋に惑わされた阿呆な姿を見た後では、一般的にステキな言葉も嫌悪感を増長させるだけであった。


「とにかく、私アドラン様のこと、これっぽっちも好きじゃないからね!」


 そのままアイリーンは身をかがめ、オフィーリアのお腹のあたりに抱きついた。

 頭をぐりぐりとなすりつけるような行動までして、甘えてくる。


 オフィーリアは条件反射的にアイリーンの頭を撫でた。

 

 ――かわいいわ。


 正直、シスコンはお互い様である。

 それに気がつかないアドランの目のなんと節穴なことだろうか。

 ぽっかり空いてなんにも見えない空虚なただの穴なら、ない方がマシとすら思われた。

 ついでに言うと、あの空っぽの頭もどうにかした方がいいし、どうにもできないならやはりなくしてしまった方がマシである。

 オフィーリアがそんな埒もないことを考えていると、アイリーンが突然顔をあげた。


「お姉さまどうしてすぐに婚約破棄を受け入れてしまったの?」

「それは、かわいい妹の為ならと思って」

「うう、私のせいね……」

「気にしないの。勝手にやったことよ。むしろ彼に変に勘違いをされてかわいそうに」

 

 よしよしと頭を撫で続ける。アイリーンは幸せそうに目を細めた。


「思い返せば接触がすごかった気がするわ」


 オフィーリアの手が止まる。


「今日もなんか抱きしめられたというか。背中とか撫でられたし……男性って距離感が近いのかなって思っていたけど……考えてみれば変よね。気がつかないなんて、私もばかだわ……。お姉さま?」


 にこりとオフィーリアは笑っていた。

 その額に青筋が浮き出ていることに気付いて、アイリーンが固まる。


「お、お姉さま?」

「そう、そうなの。接触が……距離がね……そう」


 なんども言うが、シスコンはお互い様なのである。


 

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