Bloody Familiar 《血で濡れた暗殺者》

早乙女・天座

プロローグ Bloody Familiar 《血で濡れた暗殺者》

 現在2XXX年、日本は変わってしまった。

 過去、度重なる戦争や第三次世界大戦の影響で一度は全人類が滅びるのでは、と騒がれたらしい。


 しかし、人類はしぶとかった。もうこれ以上進化することはないだろうと言われていた人類は異能の力に目覚め、もとより高かった科学技術との併用により世界的に文化の復興及び発展へとこじつけた。


 雑草も顔負けの生命力だが、その浅ましくも欲深い精神は世界に更なる混沌を巻き起こす引き金となった。


 異能力を使った犯罪行為や、度の過ぎたテロ犯罪である。


 力を持った人間とは醜いもので、この美しくも誇り高い国を、黒く汚してしまうのだ。しかし、またその醜い人間を抑する存在も、力に溺れた傀儡くぐつ人間なのだから皮肉である。


 夜風が、肩にかかった髪の毛をなびかせ、肌に少しの冷たさを伝える。すっかりと暗く、そして黒く染まった空の下、眩いほどの都会の明かりが目下に広がるビルの屋上。そこで私は静かに、ため息を吐いた。


 暗殺者というのは闇に潜む国の公安職である。異能犯罪やテロ犯罪の数が拡大したせいで発足し、最高峰の科学力と訓練された異能力をもって第一級の犯罪者を鎮圧し、国にあだなす者を殺害するのが仕事である。


 『応答せよ、コードネーム【愛国者パトリオット】』

 

 装着していた小型インカムから聞きなれた少女の声が聞こえてくる。


 「こちらコードネーム【愛国者パトリオット】、私は応答する」

 『こちらコードネーム【情報メディア】。現在【静雨レイン】と【氷顔アイスフェイス】が標的の誘導任務を進行中』

 「了解」


 ビルの屋上の淵に立ち、一歩踏み出せば落下する位置で私は懐のピストルを取り出した。そして、吹き上げる突風を全身で受け止めながら、リボルバー式のピストルに弾を一発分だけ装填する。

 

 こんなことを言うと、また怒られるのだろうが、何度やっても革手袋をはめたままピストルの整備をするのは面倒くさい。そんなことを思っていると、再度インカムに通信が入った。


 『【愛国者パトリオット】、準備に入れ。20秒前だ。カウントする』


 【情報メディア】の声が刻一刻とカウントしていくのを背景に、私はインカムを内部のプログラム装置にもつながるよう操作した。


 「ファミリアコード810、私は装着する」

 『認証しました』


 目の前に桃色のホログラムが現れて、それらはある一つの形を形成していく。これが俗にいう『造形ホログラムプリンター』の技術である。これにより、任意の機械システムを任意の素材で瞬時に形成することが出来るのだ。


 メカメカしくも重くはない仮面が私の顔面に装着された。憲法百四条、暗殺者に関する規定『人を殺めるとき、暗殺者は人であってはならない』、この瞬間だけ私は修羅の面をつける。


 洒落の利いた頓智だとは思わないか? 笑わせてくれるだろう。


 『3秒、2秒、1秒』


 迫り来る時間の中、感覚は研ぎ澄まされていく。何者でもなく、ただ無機質に色のない存在へと変貌していく。やがて、心の庭は一面ただの漆黒に染まり、カウントは0を迎えた。


 ビルの屋上から滑り落ちるようにして、無駄な力は全身から解き放ち、頭上を真下にして自由落下する。修羅の面により鼓膜などの器官は守られてはいるが、すごい風圧だ。


 そのさなか、視点は流れゆく窓の奥、ビルの室内を捕えたまま、私はゆっくりとピストルを構えた。

 

 私の同胞が普段とは全く違う様相で別の人物に成り代わり、標的ハゲ頭と楽しそうに会話をする姿が目に入る。向こうも私の存在には気づいているはずだが、そんな素振りは1ミリとて表には出さない。流石は私の同胞だ。 


 両手で握られたそれは、その一瞬を迎えたところで火を噴いた。時間にすると1秒にも満たない時間であったが、私にとっては何10秒とでもとらえられる時間である。


 打ち放たれた特殊弾は無機物を貫通し、誘導された標的ハゲ頭の眉間をぶっ飛ばした。


 「任務完了」

 

 そう【情報メディア】に伝え、すぐに通信を切り替える。


 「ファミリアコード810、私は帰還する」


 国が抱える異能力技術を使い、私はアジトへ転送された。

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