第14話 絶対に離さない その2

「……あのね、わたし、帰ってもいいかな?」


 彼女が案内してくれた場所が、本当に……本当に……、ただのイイトコのお屋敷だったら良かったんだけどね。


 それが、あらまぁ~、よ~く見慣れた場所ですこと、私が避けてる禁忌の場の一つ、受付の女性がイイ話をもってくるアソコだった。


 視界に入ってくるのは整った石造りの壁に、大きな門。側にいる門番の兵士が槍をもち巡回をはじめている。これって……、どう見ても、我が国イフリートの王が住まわれるお城じゃないですか、いやあああああああ、無理、逃げる、さようなら~、


 だけど、や、やめて~、トレシャツを強く引っ張らないで、これ以上はもう破れるから。


「だ、だめですよ。もう目の前ですから、ねぇ」


「だってさ、わたし、こんな格好だし不敬じゃないかな。お弁当とお野菜を手提げ袋に突っ込んだ怪しい変態、じゃなくって不審者じゃない? これって、どう考えても牢屋行き確定の未来しかありえないんだけど? あれだよ、わたし、用ができたかも?」


「あの、おねぇさま、恰好なんて誰も気にしませんから、それに、私、知ってますよ、お弁当屋さんでの依頼が最後なのを、おじさんに、おねぇ様のことを詳しく聞かせていただきましたから」


 がーん!! 私のおじさんの好感度がさらにダウン。


 門番たちは、こんなヨレヨレの私を見ても誰も止めようとはせずに敬礼してくれた。門番の詰め所にオジ槍と手提げ袋を預かってもらった。


 それから、わたしが逃げないように彼女は手をつないできた。絶対に離さない、をされている。そのまま引っ張られるように、しょんぼりした私はついていく。


「そういえば、私はアリスティア=イフリートと申します」


「わたしは、エリザ=トレンドって、まさか、赤の聖女候補の」


「はい、おねぇさまは私の先輩になりますから、ぜひ、アリスと呼んでください」


 あなたって王族さんじゃないですか、はい、監禁王子の妹さんですよね。逃げたい、とっても逃げたい、そうだ、私、彼女に聞いてみたいことがあったんだよね。もし、わたしがさ、エイリアスと関係をもった場合さ、もしだよ。


「あの、アリス、聞きたいことがあるんだけど、いいかな」


「はい、なんでしょうか?」


「もしさ、もしだよ、自分の墓の前でさ。恋人同士がいちゃついてたら、どう思う?」


「はい~?」


「もしだよ、もし?」


「はい、きっと、そんなふざけた輩は、絶対に許しません。化けて出れるものなら、燃やします」


 即答でした。エイリアスさん、祝福どころか呪われるじゃん。妹さん、怒ってますよ? 化けて出てきたら、燃やされますよ? 本人から言質とりましたよ?


「あははは、そっか、そうだよね、それが普通だよね」


「変な、おねぇさまですね」


 わたしは相変わらず、絶対に離さないをされている。逃げられないように手をつながれながら、引っ張られている。


 奥へ奥へと進んで行く。お城の中を初めて見たけど、本当に広い。今気づいたけど、わたし、貴族の作法とか全く知らないのだけど、どうしよう。逃げたい、本気で逃げたい。せめてトレシャツから制服に着替えさせてくれないかな。

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