第12話 赤の聖女候補

 オークジェネラルを倒してから数日が経った。ギルドの依頼を終えた私はギルドに立ち寄った。

 

 今日もクライブが学園に登校していなかった。オークジェネラルを倒した次の日、本国からスマホンで呼び出しがかかってきたのを境にクライブは早退をした。あれからまだ寮には戻っていない。だから私の向かいにあるクライブの部屋は真っ暗なままだった。まさか本当の聖女候補のヒロイン様にでも捕まってしまったのではないだろうか。それだと嬉しいなぁと、鼻歌を歌ってしまいそうだった。


「ごきげんですね、エリザさん、そういえばエリザさんは、お弁当屋さんの売り子をしていましたよね、大丈夫でしたか?」


 わたしがギルドに入ると、受付にはいつもの彼女がいた。


「はい、どうしました?」


「S級を超えるモンスターが現れたんですよ。ダニアの森に、エリザさんが働いておられるお店の近くのあの森に」 


「S級を超える……そんなモンスターがいたんですね」


 そういえば数日前にオークジェネラルがいたね。でもあれって、一人でも簡単に狩れる雑魚のユニークモンスターなんだけど、遠距離スキルは使ってこないから赤く光るまで逃げて、光って止まったら、少し後ろに下がって、攻撃を空ぶってきたところを殴るって感じで繰り返せば簡単に倒せるんだけどね。


「でも良かったですね、オークキングは謎の少女に倒されたそうです。しかも秒殺で一撃らしいです。S級冒険者でも敵わないほどの敵をですよ、すごいですよね」


「オークキングを倒したんだ……」


 もしかして、その人がヒロイン様かもしれないね。良かった。これで一安心かも。


「そうです、その人には感謝ですよ。野放しになっていたらどれだけの被害になっていたのか、分かりませんから」


「もしかして、その人が聖女様じゃないですか? 」


「最初はエリザさんが倒したのかと思いましたけど、その様子だと違うようですね。新たな聖女候補が誕生したのでしょうか」


 その人には是非とも頑張ってほしい。卒業まで、わたしは街でこそぼそと雑用依頼をしながら村人Aとして生きるていくから。お弁当屋にようこそ、聖女様って感じで、唐揚げ弁当を持って挨拶させていただきますからね。


「でもそれほどの強さを持つ人なら有名人じゃないですか? 私はあまりそういったことを知らないから」


「今、ギルドとイフリート、その同盟国のシルフィードで総力をあげて調べているようです。有名なのは赤の聖女候補様ですね。現在15歳でギルドランクSランクの火の聖痕の継承者です」


 私より3歳年下で、私とヒロイン様以外の聖女候補っていたんだね。ゲームでも聞いたことがなかったなぁ。


「ところで赤の聖女候補様ってどんな子なの?」


「ええええっ、エリザさんってお貴族様ですよね、なぜ知らないんですか? この国の姫君でアリスティア様ですよ。いくらなんでも、自分の主君の方の姫君を知らないのは、さすがに問題かと」


 あ、わたし、そういえば貴族だったんだよね。山と川の住人になっていたし、貴族社会なんて知らないよ。辺境伯領での生活が、なつかしいね、持ち切れなかったモンスターの素材と肉を町や村にお裾分けして、お礼に調味料や甘味などをもらったりもしたね。いつ頃だろうか、野菜と果物を無料で村の方々から恵んでもらったり、子供たちには、花で作った髪飾りをくれたりして、本当に優しい人達だったな。


 そういえば、火の聖痕の継承者ってエイリアス王子じゃなかったのかな。アリスティア、アリスティア、うん、アリス?


 エイリアスとの濡れ場シーンで、王家の墓の前で、エイリアスが、「私達のことをアリスに祝福してもらいたいんだ」そして、やりはじめるシーンがあったね。


 それと彼の妹が闇の勢力の罠にかかって無惨な遺体となってもどってきた。そして、火の聖痕が彼に継承されたのだった。


 説明文2行だけのグラなし死亡確定のお姫様だったかな。濡れ場シーンではアリスの三文字だけしか登場しない人。エイリアスが登場する前に亡くなってしまうんだよね。


「あはは、そうだね、教えてくれてありがとう」


「ああ、そうでした、今日の報酬をどうぞ」


 受付の女性は依頼完了の手続きを終えて報酬の入った袋を私に手渡してきた。私はにんまりとした笑顔で受け取る。


 今日はもやしじゃないんだ。わたし、泣きそう。ダニアさんとお弁当屋さんの依頼がオークジェネラルを倒したその日から数日間だけどお休みになった。そのせいで節約の毎日だったけど今日から改めて依頼を受けることになった。先日の夕飯を思いだしてしまう。わたしから笑顔がなくなってしまう。それを見た受付の女性は、


「エリザさん、やっぱり教会や国のお仕事の方がよくないですか? お金すっごくいいですよ?」


 僅かな依頼料を持ちながら悲しんでいる私の姿を見て、受付の女性は心配したように話しかけてきた。


「いえいえ、貧乏でもいいんです、心の安定が一番なんです」


「そうですか、ところでエリザさんにイイお話しがあるんですが」


 また受付の女性が、教会や国のお仕事で、とってもイイ話をはじめる。わたしは慌てて逃げるようにギルドを飛び出した。


「あっ、ごめんなさい」


「いえ、こちらこそ、すいません」


 私は赤い髪をした少女にぶつかった。

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