酸素-5

 三目みつめ 亜宇あうはその日、悶々としていた。

 その理由は昨晩、見知らぬ変な男にストーキングされたからだ。

 何時から、ストーキングされていたのか? その後に来た男の同僚と知り合いの刑事は何故、あの男を庇ったのか? そんな考えが頭を張り巡らされていた。

「どうしたんですか?」その言葉と共に亜宇の横に紅茶の入ったマグカップが置かれる。

「ううん、なんでもない。ありがとう」

 礼を言い亜宇は紅茶を飲むと「悩みごとがあるなら聞きますよ」男は隣に座る。

 男の名は、酸部さんべ 素男もとおという。

 酸部は2か月前、亜宇が勤める化粧品会社に入社してきた人物であった。

 仕事も優秀そして何より顔が良いので、女性社員からの支持は絶大的なものだった。

 亜宇は酸部の教育係を任せられたのだが、あっという間に逆の立場になってしまっていた。

「で、何があったんですか? 教育してくれる先輩の役に立ちたいですよ。僕」

「ありがとう。実はさ」

 それから昨晩起きたことを酸部に話した。

「そんなことが大丈夫ですか?」

「うん。多分、大丈夫」

「多分って・・・・・・・」

「なんか、ごめんね。心配かけさせちゃって」席を立とうとする亜宇の手を掴む酸部。

「無理しないでください。僕には分かる。だから、頼ってください、先輩の困っている姿は見たくありません」

 真剣な眼差しで亜宇を見つめる酸部。

「でも、プライベートな事だから」

「じゃあ、困った事があったら必ず僕に相談してください。いいですね?」

「分ったわ」

「約束ですよ」酸部はそう言うと亜宇の手を放す。

「じゃ、じゃあ」

 亜宇はその場から立ち去った。

「意外と図々しいとこがあるのね。彼」

 酸部に聞こえない位の声でボソッと呟いて仕事に戻る。

「さぁ~て、面白くなってきたぞ」酸部の口元が緩む。


 誠は入星管理局でオキシジェン星人の入星記録を調べていた。

 この地球に1か月で来訪する宇宙人の数は日本だけで1万を超える。

 多種多様な宇宙人が数多く来訪する中で、一つの種を探すのは困難を強いる。

「一人で捜索するのはキツイなぁ~」そうぼやきながら入星管理局のデータベースでオキシジェン星人の入星記録を探す。

 約五時間、検索をかけてオキシジェン星人が入星した記録は見つからなかった。

 しかも、ここに来て最悪な情報がもたらされた。

 入星管理局の職員のおばちゃんが閉館するのでそろそろ捜査を打ち切って欲しいと依頼しに来た時の事だった。

「あのぉ~ そろそろ」

 誠はそう声をかけられ時計に目を向けると、17時を示していた。

「あっ、すいません。もう帰ります」席を立とうとする誠に職員のおばちゃんが「失礼ですが、どの宇宙人を探していらっしゃるのですか?」と尋ねてきた。

 捜査情報を漏らすのはあまり良くないが、ここまで検索をかけても成果が得られなかったので聞いてみることにした。

「オキシジェン星人です」

「オキシジェン星人はこの星に入星出来ないことになっていますよ」

「え? それ本当ですか?」

「はい」

「その理由を教えてもらえますか?」

「私もそこまでは・・・・・・・

申し訳ありません。明日、来て頂けたら担当の者に話が聞けるようにセッティングしますけど」

「お願いします!!」食い気味に願いでる誠。

「じゃあ、そうしておきますので。何時ごろ来られますか?」

「では、明日の13時でお願いします」

「分かりました。担当の者にそう伝えておきます」

「宜しくお願いします。では、ありがとうございました」

 誠は礼を言い、入星管理局を後にした。

 その頃、愛子は亜宇が勤務する会社の前で張り込んでいた。

 時間的に退勤時間なはずなので、取り敢えずそこから尾行していき彼女の身辺調査を行おうと思い立ち今に至る。

 1時間後、残業をしていたのか。

 やっと姿を現した。酸部を連れ立って。

「18時3分、尾行を開始」

 愛子はスマホのボイスレコーダーにそう記録させ、尾行を開始した。

 二人を尾行しながらその関係性を観察していると、恋人といった関係性ではないようだ。

 なんとなくだが、ストーカーから彼女を守る為共に行動しているそんな感じであった。

 その為か、しょっちゅう酸部が後ろを振り返ってくるので尾行しにくくて仕方なかった。

 新三のせいだ。今度、この埋め合わせをしてもらおうそう心で誓いながら追跡をしていく。

 その途中、途中で写真に二人の姿を収めていく愛子。

 亜宇が住むマンションの前に到着した二人。

「じゃあ、今日はありがとう」

「いえいえ。何かあったら連絡ください」

「分かった。明日ね」

「はい」笑顔で手を振りながら亜宇がマンションに入っていくのを見届けた酸部は深呼吸をし笑顔でて愛子が隠れている方を向く。。

 まるで、尾行していたことを知っているかのように。

 愛子はこの男が事件に関わっているのではないか? 不思議とそう感じた。

 酸部がマンションの前から立ち去ったので、後を追おうとする愛子。

 酸部が立っていたあたりを通ったその時、何か息苦しいと感じ軽いめまいがしてマンションの花壇にへたり込んでしまった。

 だが、数秒でその症状が改善され先を行く酸部に目を向けるとそこに酸部の姿はなく尾行を巻かれたのだ。

「くそっ! 逃げられた」

 愛子はこの事を報告書に纏める為、一度事務所へと帰った。

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