一、エレベーター

ある前座さんに聞いた話。


彼がまだ入門する前に都内ホテルの43階ラウンジで働いていた時の事。


普段から最後の片付けをして店の鍵を閉めて、一番最後に帰るのが彼の役割で、

その日も夜10時くらいに仕事を終えて店を閉めてバックヤードの従業員専用の

エレベーターで1階の事務所に降りて行く途中に16階に止まったそうです。


“誰か乗ってくるのかな?”


ところが扉が開いても誰も乗ってこない、扉の向こうは真っ暗なガランとした

バックヤード。

従業員用のエレベーターなのでお客様が間違えてボタンを押すこともないし、

そもそも入ってこられない。

少し奇妙な気分になりましたが、そのまま1階に降りて事務所の警備員さんに挨拶をして帰る時に、先ほどのことが気になってー防犯上のこともあるしー「16階でエレベーターが止まったんですが誰もいなかったんですよね、なんでしょうかね?」と聞

聞いたんですが、警備員さんたちは「よくわからないねえ」と全く気にしてない様子だし、彼も早く帰りたかったので、そのまま出たそうです。


裏口を出てすぐに忘れ物をしたことに気がついて、警備員さんに43階に戻ることを伝えようと事務所の前まで来た時に警備員さんたちの話し声が聞こえてきました。


「また16階だな」って・・・

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