一、期待に応える幽霊

「幽霊が出るよ」楽屋の噂になりました。


「○○の会場の時に泊まるホテルに出るよ」

楽屋の噂というものは尾ひれが付いてあっという間に広がります。

「〇〇〇号室に出る」

「いやいや、○階の全部屋に通しで出る」

「出る気配がした」

「足を掴まれた」

なかには「お客さんが満員なのに高座でまったくウケなかった」

関係ないんじゃないのというものも幽霊のせいにされる始末。


そんなに話題ならと、ある師匠が映像で撮ってやろうと思い立ちまして漫才師さんと三人で動画を撮る事にしたそうです。


ところが事前に何度も確認したのに現場ではカメラが(予備も含めて)動かない撮れないというベタな展開。

おまけにその師匠はその後に病気になり漫才師さんも二人とも怪我をしたり病気になったりでしばらく活動できないという更にベタな展開。


皆の期待に応えるとっても優等生なベタな幽霊さん。


私も真打ちになった時にお声がかかりそのホテルに泊まることになりました。

ビビりながらもちょっと期待していましたが、そのホテルは改装され綺麗になり

幽霊が出なそうなホテルになって、幽霊は出なくなったそうです。

ここでも、出なさそうなとこには出ないと期待に応えるベタな幽霊さん。


一緒に出演した二ツ目さんに聞いてみましたがやはり出なかったそうです。

「期待外れでつまらないですねぇ」二ツ目さんも言ってました。

出たら出たで怖いと言われ、出なかったら期待外れと言われる

幽霊さんがなんだか気の毒。


ちなみに動画を撮ろうとした師匠も漫才師さんも今は病気も怪我も完治して

元気で活躍してます。


幽霊さんの仕業だとしてもそんなにひどいことはしなかったんですね、

本当に私達のが期待する幽霊像に応えてくれたベタな幽霊さん。

なんだか愛着が湧いてきちゃう。

でもね、ホテルが無くなったからって家に来ちゃダメだよ。

いやいやフリじゃないよ、本当に本当に本当に。

期待に応えないでね、家はやめてぇ!

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