第3話 というか、あんたは、ずっと、パシリなんだからねッ‼

「昨日はごめんね、貴志君」

「本当ですよ……」

「本当にごめんね」


 翌日の昼休み。貴志湊きし/みなとは職員室にいた。

 今は、昨日の件の続きで、椅子に座っている先生を前に、湊は、その場に佇んでいたのだ。


「それで、あとは何をすればいいんですか?」

「それはね。昨日、段ボールを持ってきてもらったじゃない」

「はい」

「その中にあるものを、あの子らに渡してほしいの」

「え? 段ボールの中にあるものを?」

「ええ。一応、彼女らの部活風景を見てきたでしょ?」

「まあ、そうですね」


 湊は頷いたのである。


「だからね、行動を共にしてほしいの」

「ちょっと待ってください。別に俺は、あの部活には」

「私もこの頃、色々と忙しいし」


 肩までかかる程度のヘアスタイルの先生から強引に、部活の監督を頼まれたのだった。


 なんで、こんな目に合わないといけないんだよ……。


 でも、逆に考えれば、合法的に爆乳を見ることができるのだ。

 むしろ、特典付きだと思えば、何ら問題もないような気がする。


 元々、パシリという扱いだったが、監督という立場になった。

 しかし、監督になったとしても、彼女らからの扱いはそこまでわからないような気がする。


 湊はどこの部活にも所属していなかったこともあり、一応、頷き、承諾するのだった。




「それで、俺は具体的に、どんなことをすればいいんですか? 部活の指導まではできないですけど」

「そこまではしなくてもいいわ」

「ですよね」

「君にはね。あの子らのプライベートも管理してほしいの」

「プライベートもですか?」

「ええ。あの子らって、なかなか、男子生徒とデートをしないっていうか。美少女なのに、なぜか、男子と距離を取りたがるのよね」

「そうなんですか?」

「ええ」


 先生は頷いていた。


「だから、そこらへんもやってほしいというか。湊君は童貞で彼女もいないんでしょ?」

「な、なんでそれを?」

「だって、それ、学校中で噂になってるし」

「……変な噂を信じないでくださいよ」

「あれは、嘘なの?」

「……ほ、本当ですけど」

「だったら、都合がいいんじゃない? 童貞であれば、彼女らも安心して関われると思うし」

「どういう理論か、意味不明ですけど」

「じゃ、今日から、お願いね」

「は、はい……では、これで失礼します」


 湊は頭を下げ、先生に背を向け、その場から立ち去ることにした。


「ちょっと待って」

「何かあるんですか?」


 湊は再び、先生に顔を向ける。


「湊君には、今からランニング部の部室に行ってほしいの」

「なんでですか?」

「今後のことについて話すためよ。部員らも、今そこにいると思うから、行ってみなさい」

「今から?」

「ええ。場所はわかってるでしょ?」

「わかってますけど」

「今度は間違わないように入るのよ」


 先生に言われ、職員室の外に出ることにした。


 それにしても、気まずい。

 昼休み中も、関わらないといけないのかと、そんなことを思い、廊下を歩く。

 部室があるところは、今いる校舎ではなく隣にある建物の方。

 中庭を通り、その場所まで向かう。






 現在、昼休みということもあり、中庭のベンチに座り、仲間内同士で会話しながら食事をしている人を見かける。

 部室のある建物に入るなり、教室の名前を確認するように廊下を歩き始めた。


「……ここだな。ランニング部の部室って」


 昨日は間違って、女子更衣室に入ったわけではなかった。

 他の部活の女の子らが使用していたことで、たまたま、空き教室で彼女らが着替えをしていただけだったのだ。


 そんな奇跡があってたまるかと思い、不満を心の中でこぼしながら、ゆっくりと扉を開けた。


「ん?」


 湊は、部室に入ってわかった。


「⁉」


 彼女らは確かにいるのだが、部室に佇んでいる宮原世那みやはら/せな先輩だけ、上半身ブラジャー姿だった。下半身の方は普通にスカートなのだが、その衝撃的な、場面に一旦、扉を閉めてしまう。


 一瞬だけ見えたものの、未だに心臓の鼓動が高鳴る。昨日、何度も爆乳を見る機会があったものの。やはり、爆乳慣れしていないこともあり、緊張するのだ。

 悪いことをしてしまったような、気まずい思いが、体を駆け巡っているようだった。




「ね、先輩ッ、どうしたんですか」


 後輩の高井紬たかい/つむぎが元気のいい声で部室の扉を開けた。


「って、紬こそ、その服装は⁉」


 彼女も、上半身、ブラジャー姿だった。


「だって、今日は暑いでしょ。だから、こんな格好をしてるの。でも、いつもこんな感じだよ」

「そうなのか? でも……」

「それで、先輩はどうして、ここに来たんですか?」

「それはさ。あの先生から、言われて。行けって言われて」

「監督の先生?」

「ああ。そうだよ」

「そうなんだ。まあ、じゃあ、先輩が監督になったってこと?」

「ん? どうして、それを?」

「だって、昨日ね。私らが、先生に言ったからだよ」

「え? 言った?」

「うん。あの先生、この頃忙しくて、部活に顔を出せないっていうから。それに、先輩って、一応、私らのパシリみたいな感じでしょ?」

「ま、まあ、そうだな」


 パシリって呼ばれ方はあまり好きではなかったが、実際のところ、そんなポジションである。


「ちょっと、ねえ、ずっと、扉のところにいないで、入るんだったら、入ったら?」


 部室の奥から、いつも通りの罵声が聞こえてくる。

 面倒になる前に、湊は部室に入ることにした。






「で、あなたが、この部活の監督になったと?」

「はい……そうですね」

「私は反対したんだけどね。あんたみたいなのが、監督とか……」


 長テーブル前の椅子に座っている湊は、頷く事しかできなかった。


 石黒楓音いしぐろ/かのんとは隣の席同士。

 他人から羨ましいとか思われているが、そんなことはない。

 口を開けば、バカにしてきたりする。


 教室内では、そんなこともないのだが、昨日、着替え姿を見てしまったこともあり、さらに当たりが強くなったような気がした。


「でも、私は嬉しいかな。先輩がうちの部活の一員になって」


 紬は楽しそうだった。


「あと、これでも飲んでね、湊君」


 気が付けば、左隣に藤咲弓弦葉ふじさき/ゆづるはが佇んでいたのだ。

 彼女は、湊の前のテーブルに、お茶が入った陶器のコップを置いた。


「ありがと」


 というか、それにしても、おっぱいがデカいな。

 椅子に座っていると、余計に、おっぱいが大きく見てしまうのだ。




「それで、入部するってことだよな?」

「はい、そうですね」


 近くの椅子に座っている世那先輩に話しかけられる。


「入部するなら、この用紙に書いてくれ」

「入部届?」

「ああ、ここら辺はしっかりと書いてもらわないとな」


 世那先輩は何かときっちりしているようだ。


「は? え? ちょっと待って、本当に、こいつを、変態で童貞な奴を入部させるんですか?」


 と、楓音は激しく批判する。


「まあ、いいじゃんか。湊には彼女がいないし。そんなに害はなさそうだろ?」

「あるのッ」

「なんで、それがわかるんだ?」

「わ、わかるし……」

「え?」

「隣の席だから……嫌でも」

「ふーん、そうなんだ。それで、なんかされたことはあるの?」


 世那先輩は、苛立っている楓音へ質問する。


「べ、別に……なんか、されたわけじゃないけど」

「じゃあ、いいじゃん。湊には、色々とやってほしいこともあるし。じゃあ、入部届に書いてよね。湊」

「はい、わかりました」


 湊は席に座ったまま、記入するのだった。

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