第1話 イケメンの友達が通った後はまるでモーゼのようだ

 僕は、朝起きて、顔を洗ってパンを食べるといつものように身支度を整え、家から最寄りの駅に向かっていた時だ。後ろから型をとんとんされて振り向くとほっぺを人差し指で突かれた。


「まさか、こんな古典的なのに引っかかるなんてな」

「な、何をする!」

「はは、わりい、わりい」


 僕にちょっかいをかけてきたこいつは小学三年生からの腐れ縁、親友の桜井一樹さくらいかずき。何を隠そう運動神経抜群なさわやかイケメンだ。噂によるとありとあらゆるスポーツのプロからスカウトが来てるとか。本人は否定してるけど・・・・・・ おまけに見た目のルックスから女子によくモテる。昔から好きになった人は決まって一樹のことが好きなのだ。いいさ、女子に持てるのはとっくの昔に諦めた。家に帰ったら少女コミックで癒されよう・・・・・・


「何、ブツブツ言ってるんだ?」


 一樹が僕の方に腕を回してきた。


「はなせ~、暑苦しい!!」

「そんなこと言うなって、行くぞ」

「話を聞けって!」


 僕は引きずられるように駅の構内に引っ張られる。


「キャァァァァァァァァァッ!!! 一樹様よ! あんなにいい笑顔で」

「しかも、男子とあんなに仲睦なかむつましそうに」

「朝からいい物を見ました。ありがたや、ありがたや」

「私の生涯に一片の悔いはなし」


 駅構内に入った瞬間、一樹を見て発狂するもの。僕とのカップリングを想像して鼻血を出す腐女子。神様に相対したみたいに拝むもの。某キャラクターのセリフを入って立ったまま気絶するもの。さらに倒れる者が続出。


「傷は浅いぞ。衛生兵、衛生兵!」


 僕はその状況を見ながら進んでいく。遠巻きに通勤途中のOLやサラリーマンが何事と見ている。他人のふり、他人のふりと行きたいが、悲しいことに騒いでた女子たちと白い制服に縦に青いラインが入り首元にリボンをしている。ちなみに男はネクタイだ。そのせいで学校が同じだということがまるわかりだろう。私服ならよかったのにと思わずにいられない。だが、こんな変人はごく一部だと思いたい。

 僕たちが通う高校は埼玉県某所にある新設された文武両道の高校で交通のアクセスがいいことから東京や千葉からも多くの生徒が通っている。

 僕たちは春日部駅八番線で大宮行きの東武アーバンパークライン(東武野田線)を待っていた。何でこんな覚えづらい名前に変えたのだろうか? と思ってるのは僕だけだろうか。


「何黄昏てるんだ?」

「いや、この電車の名前言いづらいなぁと思って」

「ああ、アーバン何とかだったけ」

「それはそうと、いい加減腕どかしてくれない」


 ホームに来るまで一樹はずっと僕の方に腕を回したままだったのだ。歩きずらいのは我慢するにしても周りからの視線が痛いのだ。特に女子から。さすがに周りの目があるから改札の外ほど騒がしくないが、一樹と仲良くしてるのがいけないが遠くから妬んでるような視線を感じる。一部の腐女子はカップリングだ~と騒ぎながら携帯でパシャッと撮っている。隠し撮りなんかじゃなく、堂々と。一樹なんかポーズまでとっちゃって。


「一樹はこんなにモテてるのに彼女、作らないの? その気になったらひっきりなしでしょ」

「それは――――」


『まもなく八番線に快速大宮行きがまいります。危ないですから黄色い線の内側にお下がりください』


「お、電車来たみたいだな」


 アナウスにさえぎられて聞けなかった。続きは電車の中で聞くとしよう。

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