Pretty & Vitality ー可愛くって元気ー

虎太郎

第1話 Pretty & Vitality Kaki&Cya

「もうやだ~↓↓ もおぉ~↓↓ カキちゃんがガサツでぇ↓ シアぁ寝れなあぁいぃぃ↓↓」


 その凄く鼻につく声を出した少女は片手に枕を持ちながら、一目見て異常と判断できる、部屋一面に敷かれたマットレスの中で、いかにも女の子らしい座り方をすると、ソファに大股開きで座るもう一人の少女に声を掛けた。声を上げた白のワンピースを着た少女は、全身真っ白白の色素も感じられない程の肌と長い髪の持ち主で、いかにも取り作ったように下げた眉尻で不機嫌そうな顔を見せると、もう一人の少女を睨み続ける。

 

「シアちゃん! 別にあーし、ソファに座ってるだけじゃねーすかっ!」


 シアと呼ばれた色白の美少女から声を掛けられたカキと言う少女は、シアとは対照的に、刈り上げた特徴的なおかっぱヘアーを揺らし、へそ出しトップス、ショートパンツから露出した真っ黒に日焼けした肌を見せつけると、これまた対照的な凄く張りのある大きな声で返事を返す。そして、元から悪い目つきを更に尖らせると、男っぽい性格なのか大股で開いていた足を閉じ、ソファの上で胡坐をかいた。


「え~↓ もうやだぁ~↓↓ 何その座り方ぁ~↓↓ 多機能ハンガーみたいぃ↓↓」


「――っ! …相変わらず、あーたの例えは意味わかんねーし。微妙にむかつくんっすよね!!」


「え~↓↓ ガサツだからじゃなぁーい↓↓ …草www」


「…あーた。…マジ殴るっすよ」


 シアはいかにも小馬鹿にしたような返事を返すと、これまた更に煽るように口元に添えた手から馬鹿にしたような笑みを漏らした。シアの態度にカキは自身が座っていたソファに、右手を付くと胡坐をかいた状態から飛び降りるようにソファを降り、シアの座る目の前まで移動したのだった。


「なっ、何その降り方www草www―――飼育員に餌を求めたゴリラみたいwww」


「あーた。なんで、あーしの事、馬鹿にするんっすかっ?」


「もう~↓ 怒んないでよぉぉ↓↓ 顔がカメムシみたいだよぉぉ↓」


「――ぶっ!! …切れたっすッ!!」


 シアの小馬鹿にした返答に、カキは眉間にしわを寄せ額に青筋を浮かす。そして舐めるなよッと言わんばかりに、座るシアを上から威嚇したように見下ろすと、すぐさまシアの両腕を掴んだのだった。


「いたぁい、いたぁい↓↓ もう~↓↓ カキちゃんのガサツがうつるぅ↓↓」

「ガサツは、うつんねーっすよッ!!」


 カキの掴む両手を振りほどこうと、シアは暴れるように体を揺するが、カキは自身の腕に筋肉の筋を浮かせる程に力を込めると、尚も暴れるシアを抑えつけたのだった。


「もう~。ごめん↓ごめん↓ 許してぇカキちゃんん。痛いぃ、いたいよ。シアの腕折れちゃうぅ↓↓↓」


「もう、言わねーっすねっ?!」


「いわない。言わないよぉ↓↓」


 シアがようやく謝罪の意思を示すと、カキは握りこんでいた両手を解き、シアの拘束をようやく解く。シアはカキから握りこまれた腕をワンピースを捲り確認すると、腕の皮膚が指の跡にくっきりとへこんでいたのだった。


「もう~↓ ほんとガサツだからぁ。やだぁぁ↓↓ ―――力が強いし、おっぱいもないし。いびきが鯨並だし。寝ながらアクティブソナーでも発してんじゃないのぉぉ。草www」


「―――あぁ?なんか言ったすかッ?」


「言ってないよぉぉ↓↓ シア可愛いだけだしぃ↓ …もうぅ↓とりあえずぅ↓ここに寝転んでぇカキちゃん」


「…い、意味わかんねーすけど。な、なんであーしが寝転ばねーといけねーんすか? ……えっ、えーと、こ、こうすっか?」


 シアの脈絡のない会話にカキは不思議そうな顔を晒しながらも、シアに言われた通りに素直にマットレスの敷き詰められた床に寝転んだ。


「違う、違うぅ↓↓ うつ伏せぇ~↓↓ うつ伏せになってぇぇぇ↓↓」


 カキはシアに言われた通りに寝転ぶが、シアの思っていた態勢と違ったようで、シアは声を上げながら、自身の体をジタバタと動かすと急かす様に自身の両手でカキの体を掴み、うつ伏せになるよう促したのだった。


「こ、これで…いいっすか? …あ、あーたは、相変わらず、わ、訳わかんないっすね……」


「そう↑そう↑そう↑そう↑そうぉ↑↑↑ もうそのままぁ~↓ 目ぇぇ閉じてぇ~↓↓」 


「め、目ぇぇ?? ……な、なんで? ま、まあ、あ。…はいっす」


 カキは恐ろしく素直なのか怪訝な表情はするが、最終的にはシアの要望に従うように、うつ伏せになると自身の瞳を閉じた。カキはシアの恐ろしく変わった性格を知っているだけに、頭にシアの顔が浮かぶたびに、凄く言いようのない不安に襲われていたのだった。


「し、シアちゃん? …な、なんか、あーしこえーんすけど? …あーたがまた変な事しそうで…」


「大丈夫大丈夫っ。もう瞑想だと思ってっ、瞑想っ。そうっ瞑想っ」


「あーー。…は、はいっす」


 暫く瞳を閉じていたカキだったが、数秒後ドスっと音と共に自身の臀部に突然重みがのしかかる。


「ひゃっ?」


 カキは短く声を上げ、慌てた様に目を開く。そして、身体を捻り自身の臀部を急いで確認すると、そこには自身の臀部に埋もれるように頬をうずめたシアの姿を発見したのだった。


「な?! な?! な?! なにしてんすかッッ!? あ、あーた!? し、シアちゃん??!」


 カキは自身の見た光景に驚きのあまり慌ててシアに声を掛けるが、シアは全く気にする様子もなく、ただカキに眠たそうな視線を向けたのだった。


「枕ぁ↓↓ 使ってるだけだよぉ↓↓」


「な、…何言ってんすか? あーた…」


「カキちゃんのケツ、シアの枕じゃあん。寝ようと思ってたからぁ↓ 動く枕呼んだだけだよおぉ↑ それよりぃぃ↓↓ 動かないで、動かないでよぉぉ↓!」


 カキの臀部に頬を寄せているシアは、カキの臀部をペシペシ叩きながら全く悪びれた様子も見せない。むしろ、カキは全く悪くないのに、態勢を変えた事に対し、シアは目尻を下げ、怒りだす始末だった。


「嫌すっよ嫌っすよ!! なんであーしのお尻が―――」

「もうほんとっ、このカキちゃんの付けてるゴツゴツのベルト嫌いっ。邪魔っ」

 

 シアはカキの言葉など全く気にせず、むしろカキの服に対して文句を言いながら、カキのショーパンの上に巻いている、ゴツイ斜めかけの2つのベルトを無造作に剥ぎ取り、カキのショーパンをずり下げたのだった。


「きゃっ。っな――」

「これでシア痛くない。おやすみっ」

 

 パンツ丸出しになったカキは可愛らしい悲鳴を上げるが、シアは最早お構いなしで、今度はカキの臀部にうつ伏せに自身の顔を埋めると、満足そうに瞼を閉じるのだった。カキは恥ずかしさから日焼けで真っ黒になった顔を紅潮させ震わせるが、引き攣る口角のせいで口を開けたまま、ただただ、声にならない声を漏らすだけだった。


「…ァァァっ」


「………クッセwww」


「ッッアァん?!!」


 シアはカキの臀部に顔を埋めながら、不意にカキを愚弄する言葉を吐きだし笑いだすと、さすがに堪忍袋の緒の切れたカキは体を強制的に捩じり、飛び掛かるようにして、シアの頭を片手で握りつぶす様に掴む。

 カキのギリギリと握りこむ力は相当なもので、細い華奢な腕には見えるが、シアの頭に指がめり込みそうに見える程食い込んでいく。カキは更に額に青筋を浮かべて歯を軋ませると、シアの頭を自身の腕に筋を浮かせる程の筋力で、引っこ抜く様にして持ち上げたのだった。

 

「いたぁい、いたぁい、いたぁいいたぁい―――」

「…シアちゃん。あーし怒ってるっすからね」

「いたぁいよ、ご、めん。ごめぇんごめぇん―――」

「もう言わないっすか?」

「いわぁなぁい↓ いわぁないいわぁない↓からぁあ↓↓」

「絶対すよっ!!」

「………」

 

 悲鳴を上げ謝り続けるシアに、ようやく、カキは握りこんでいた自身の右手を、シアの頭を解放するようにして外したのだった。


 しかし、カキが握りこんでいた右手を外した瞬間、自分の掌で隠されていたシアの顔を見て、再びカキは絶句したのだった。

 

 そのシアの顔は表現するのも馬鹿らしくなるくらいに汚く。

 カキを煽るようなその顔は、焦点の合わない目、飛び出した舌の角度、顔によせた皺、芸術点すらあげれそうな程の醜い顔で、最早美少女とは呼べず、女の子と言うか、人と呼ぶにも悍ましいものだった。


「…なんでシアちゃん。…そんな汚ねー顔できるんっすか?」


「………」


「…あーた、人としての尊厳まで捨てたんすか?」


「えぇ~↓↓ シアぁ↓ 可愛いぃよぉぉぉ↓↓↓」


 カキの真顔で真剣に問いかけた言葉に、ようやくシアはいつもの顔に戻ると、またいつもの様に鼻につく声で、自身を称賛し始めたのだった。カキはその態度に自身の首を、釈然としないと言わんばかりに横に傾けた後、シアに言葉を返した。


「あーし、自慢じゃねーすけど。シアちゃんのその顔、世界一きたねーと思ってますからね。―――もう、とち狂ったペロッ〇フだと思ってますから。あーし」


「カキちゃんっ、ふっ。ふっふっ、その顔、ひ、ヒバゴンみたいだけどね。草www」


「ああぁん?!!」


 尚も反省しないシアの態度に、煽り返されたカキが声を荒げた瞬間だった。


 ♪♪♪~~~♪♪♪ting-a-ring ting-a-ring―――


 カキの身に着けている右腕の携帯デバイスが着信を知らせる音を鳴らす。カキはその自身を呼ぶ音に怒り狂いそうな感情を抑えると、若干歯がゆそうにしながらも、自身のショートパンツを履き直した後に、対応したのだった。


「はいっ!!! カキっすっ!!!」

『あ、あ。…か、カキ? …お、怒ってる?』


 電話を掛けてきた人物は、声色だけで判断したら年上の男の声には聞こえるが、カキの荒くれたような第一声を聞き、ビクついたように声を詰まらせると、恐る恐るカキに尋ねた。


「怒ってねっーすっ!! それでなんすかっ? アル師匠ぉ。仕事っすかっ?!!」

『う、うん。…い、依頼なんだけど…きょ、今日は辞めよう、かな…』

「なんでッッすかッ!! あーし、今! 『ぶッッッ放!!』してぇ気分なんすけどっ!!」

『わ、わかった。もういつもの場所に来て、あ、何時でもいいよ私ずっと待ってるから、うん、さよなら待ってるね―――Pi――』


 カキがアル師匠と呼んだ男は、カキに恐れをなしたかのように、要件を口早に言うと、逃げ出す様に通話を切ったのだった。そして、カキはデバイスをつけた右腕を横に振った後、部屋のマネキンにかけてあった黒色で青い薔薇のプリントが入ったスタジャンを羽織ると、シアを振り返った。


「シアちゃんっ!! 仕事っす!!」


「えぇ~↓↓ やだぁ↓ カキちゃん独りで行ってぇぇ↓↓」


「なーに言ってんすかっ、出動っすよっ!」


「も~やだぁ↓↓ その名前ぇ↓↓ なんかトイレの芳香剤みたぁぁ↓い。食虫植物の匂いとかしそぉぉぉ↓↓」


 カキは駄々をこね、体をくねらせながら仕事を嫌がるシアに、自身の右手を伸ばす。 


「もう、行くっすよっ。今日も―――」


 そして、カキは自身の眼に力を込め、軽く微笑むと、今日一でかい声をシアの目の前で叫んだのだった。


「―――『ぶッッッ放!!』しに!!!!」




 

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