大魔王ディアボロス殺人事件 ⑥

 影乃英雄は秋山に近づく。

 その1歩1歩は重たく、秋山は勢いでナイフを影乃英雄に突き刺した。

 しかし、影乃英雄の皮膚は甲虫のように固く、ナイフは貫通しなかった。

 秋山は動揺した。

 突如目の前に、現れ、圧倒した謎の存在が目の前に居るのだから。

 秋山は大魔王ディアボロスに変わった。

 そして、足元の影から黒い人影たちを放ち、影乃英雄に襲わせる。


「……行け」


 黒い人影の怪物たちは影乃英雄を襲うも、影乃英雄は次々と人影達を吹き飛ばし、大魔王ディアボロスに向かっていく。

 吹き飛ばされていく人影の怪物達はまるで衝突事故の映像に使われる人形の様だ。

 大魔王ディアボロスは剣を振るい、影乃英雄との間合いをとる。


「私は秋山くんを助けたい、だから! あんたが嫌でも。手を伸ばす!」


 影乃英雄はその剣をへし折り、大魔王ディアボロスの顔面に渾身の拳を放つ。

 その拳の衝撃は顔面を貫通し、大魔王ディアボロスは遠くへ吹き飛ばされ、電柱に衝突し、へし折れる。


「あっ」

「「何してんだァ!」」


 2人からの怒号を受けつつも影乃英雄は大魔王ディアボロスに空中で右脚の鋭い回し蹴りで追撃をする。

 大魔王ディアボロスは何とか腕でガードするが、その大木をぶん回したかのような蹴りは両腕のガードでもかなりのダメージであった。


「……クソっ、行け」


 すると、先程吹き飛ばされた人影の怪物達が起き上がり、2、3体で粘土を混ぜ合わせるかのように合体していく。

 そして一体化すると、その姿はまるで巨漢の男のようになった。


「強化体って訳ね」


 影乃英雄は強化された人影の怪物に正拳突きを放つ。

 しかしその皮膚は固く、影乃英雄の正拳突きはまるで効いていなかった。


「なっ」


 影乃英雄が動揺した刹那、強化された人影の怪物は影乃英雄をデタラメに殴り飛ばした。

 影乃英雄はあっさりと吹き飛ばされ、塀を貫通する。

 塀はボロボロに崩れ落ち、庭に居た犬がワンワンとけたたましく吠えている。

 強化された人影の怪物は影乃英雄の元に近寄る。

 しかも三体もいるのが厄介であり、影乃英雄はどうしようかと困惑した。

 その時である。

 突如強化された人影の怪物の一体の肩が爆発した。

 正確に言えば、爆発ではなく、撃ち抜かれたのだ。

 そしてもう一体は輪切りにされ、バラバラにされている。


「私達のこと忘れて無いわよね」

「初めての共闘になるのか……って変身すると背が伸びるんだなお前」

「うっさい」


 影乃警察と影乃海賊の姿がそこにあった。


「ほら、英雄。さっさと、あの哀れな悪党ヴィラン。助けてあげなさい」

「はい! わかりました! 先輩!」

「先輩!?」

「……なんか悪いですか」


 影乃警察はちょっとびっくりしたが、まぁいいかと思った。

 後、ちょっぴり恥ずかしかった。


「ま、まぁ……良いわよ?」

「何照れてんだ! さっさとこいつら倒すぞ! 英雄! お前は魔王倒せ!」

「分かりました! 海賊さん!」


 影乃英雄は強化された人影の怪物を踏み台に飛び上がり、空中に飛翔する。

 その姿はまるで蝶の如し。

 そして、そのまま右足を突き出し、急降下を始める。

 段々と重力によって強くなるパワーにより加速し、影乃英雄はひとつの彗星のごとく速さに達し、大魔王ディアボロスもとい影乃悪党シャドウ・ヴィランに向かっていく。


「「いっけぇええええええええええ!!!」」


 2人の叫びと同時に、影乃英雄は、大魔王ディアボロスを貫く。

 地面を数メートル削ってようやく止まった影乃英雄は、元の西宮舞の姿に戻った。

 大魔王ディアボロスは倒され、秋山剛の姿に戻る。

 そして、影乃海賊と影乃警察と戦っていた人影の怪物達も、砂のように消えていった。


「……良かった……元に戻って……」



 その後、秋山剛は逮捕された。

 しかし、この事件が世間に知れ渡る事はなく、超電光グリッターは無事に最終回を放送する事ができた。

 碧達はよく分からないが、北崎の特別な権力が動いたとか、動かないとか。

 とりあえず碧達も超電光グリッターの最終回を視聴し終えた所である。

 その時、西宮舞がノリノリで何かが入った紙袋を持ちながらやってきた。


「みなさァァァん! この前のお礼にクッキー持ってきました! ぜひ食べてください!」

「おぉ〜こんなの作ったの、ありがとねー」

「いやぁ〜北崎さんに特殊捜査課に誘われたのもありますしー」

「「えっ?」」


 その一言に碧と東間は何を言ってるんだとしか考えられなかった。


「ああ、2人には言ってなかったけど。西宮ちゃんにも特殊捜査課としてタレントしながらやってもらうことになるから」

「「はぁあああああ!?!」」

「よろしくお願いしまーす」

「ちょちょちょちょちょちょちょっと待ってください北崎さん!? こんな子も入れるんですか!?」

「うん」

「北崎おめぇ何考えてんだ!? うちにはもう脳筋女子中グッほぉ!」


 東間は全て言う前に碧にケツキックを食らった。


「まぁ碧ちゃんや東間くんみたいに常にいるって訳じゃないから」

「はぁ……居たら賑やかになりそう……」


 碧はため息をつきつつも、クッキーをバクバク食っていた。


「東間くんは食べないの?」

「ああ、俺クッキー苦手なんだよ」

「へぇ〜珍しいね」

「まぁ……な」


 東間の顔はどことなく暗い顔をしていた。


「食わないなら私が全部食うわよ」

「碧ちゃん僕の分は残してくれない?」

「ああ、北崎さんの忘れてたわね……おかしいわね、もう2枚しかないわ」

「……そうか」


 北崎の目には悲しみの涙がどこなく見えてきた。


 特殊捜査課の新たなメンバー、西宮舞。

 彼女は正義を守る英雄として、影に染まった人々を救うのであった。

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