学園連続狙撃事件 ⑤
碧が狙撃されたのを東間が知ったのは数時間後のことだった。
碧は呼吸器をつけられた状態で病院に運ばれ、現在手術を行われている。
東間は病院のベンチでただ無事を祈ることしかできなかった。
その様子を北崎は壁によりかかって見ている。
自分がいなかったからこんな事態になってしまった。
東間はただただ己の愚かさを感じていた。
手術室のランプが消え、執刀医が扉から出てくる。
「南さんの容態ですが、ギリギリ心臓に傷はなく、何とか一命は取り留めました。しばらく安静にしていれば治るでしょう」
北崎は安堵したが、東間は碧を撃った犯人に対する敵対心が大いに増幅した。
なんの関係の無いはずの彼女を撃つ程の下衆を。
「絶対ぇ許さねぇ」
「おっ、珍しく燃えてるね」
「……うるせぇ」
「恋心まじりの……」
「うるせぇよマジで! 雰囲気壊すな!」
翌日、東間は時計塔の扉をどうすれば開けられるか調査を開始した。
付き添いとして宮部も参加する事になった。
報酬はコーヒー3缶分。
調査その1。
こじ開ける。
宮部と東間の2人がかりで開けようにもドアはビクともしない。
ただ2人の無駄な力と声が廊下に響く。
2人の手は血で汚れたかと思えるほど真っ赤になり、流石に諦めた。
ドアの開け方その2。
ピッキングを行う。
ピッキングとは、鍵を使わずに施錠されたドアを開ける鍵屋の技術の一つである。
本来なら専用の道具を使うのだが、今回は針金2本で代用する。
やっている事は不法侵入する犯罪者と変わりない。
「さてと……開くかな〜扉ちゃーん?」
「東間、お前こういうの好きなのか?」
ピッキングをしている東間の顔はまるで金庫を開けようとする泥棒だった。
かれこれ5分経過。
一向に扉は開かない。
最初はノリノリでピッキングしていた東間もだんだん舌打ちか文句しか言わなくなり、宮部も教科書を読んで授業の復習をしていた。
「……開いた?」
「だあぁぁぁぁ! 開かねぇ!」
すると、向こうの廊下から老人の怒鳴り声が聞こえた。
「こらぁあぁああああああ!」
管理人だった。
2人は叱られた後、中庭のベンチで清々しい青空を見上げることしか出来なかった。
「うわぁーどうしてもあかねぇー」
「もう諦めたら? 悪霊の仕業でまとめときゃ良いだろ。開かない扉を開けることなんてできないんだよ。不可能犯罪って現実であるんだろ?」
「いやまあ……そうだけど……」
「あれ、かなり古くから建ってるから、もうただの鉄の塔だぜ? 隠し扉でもあるならとにかく、あんなところ寄る人間なんてお前くらいの物好きだけだと思うよ」
その言葉を聞いた瞬間、東間の脳裏に電流が流れる。
「……おい、宮部」
「ん、なんだ?」
「時計塔に隣接してる部屋とかあるか?」
「はぁ? まぁ……ほとんどあそこの周りは手付かずだけど……生徒会室位か?」
「よし行くぞ」
「はぁ?!」
「案内してくれ」
東間は宮部の手を引っ張り、そのまま生徒会室に向かう。
東間は走る。それは復讐の為ではない。
影に埋もれた真実を、海賊らしく、奪い取る為だ。
時計塔の内部。
そこに1人、影を纏った人物が現れる。
時計盤の隙間から、長身の銃を通し、中庭にいる男子生徒に標準を向ける。もう既に彼は3人も狙撃した。その引き金に躊躇いはない。これで、目的は達成される。ここで撃てば、誰にも分からない。
悪霊などというちゃちな噂のせいになる。
これで、終わりだ。
「そこまでだ、
東間の声が時計塔の内部に響く時、影乃狙撃手の手がブレて弾丸は男子生徒を外れ、木を撃ち抜いた。
「何故ここにいる……」
影乃狙撃手は東間に向けて狙撃するが、東間は首を傾ける最低限の動きで避ける。
影乃狙撃手は動揺し2、3発撃つも、東間は
「どうして……ここがわかった!?」
「あんたと同じ手段を使ったまでよ。とある部屋に隠し扉があったんでね。さっさと観念しな」
「俺の復讐の邪魔をするなぁ!」
影乃狙撃手は声を荒らげて、時計塔の内部の空間の大半を占めていた歯車の支柱を撃ち抜く。
すると、寂れた歯車は軋んだ音を内部全体に響かせ、影乃海賊の真上に落ちていく。
影乃海賊は慌てて避けて、地面を転がる。
歯車が地面に落ちた衝撃でホコリが舞い上がり、影乃海賊は影乃狙撃手を見失う。
「あの野郎……どこだ」
すると、銃撃音が内部に鳴り響くと同時に影乃海賊の顔をかすめる。
影乃海賊は腰にたずさえたもう一本のカットラスを取り出し、どこから弾がくるのか警戒する。
再び銃撃音がなる。
影乃海賊はすぐに方向を見抜き、弾をカットラスで弾く。
さらに銃撃音がなる。
もう一度影乃海賊は弾をカットラスで弾く。
「……ったく。らちがあかねぇ」
影乃海賊は両手に持った2本のカットラスを構える。
「
影乃海賊はその場でコマのように回転し、空気中に舞うホコリを巻き込んで大きな竜巻と化した。
そして現れた影乃狙撃手に向かって突っ込む。
竜巻に向かって影乃狙撃手は弾丸を撃ち込むも、弾はあっさりと竜巻に巻き込まれる。
影乃狙撃手はもう為す術は無かった。
影乃狙撃手は竜巻に巻き込まれ、竜巻の中の影乃海賊に切り裂かれる。
影乃狙撃手はガラスのように砕け散り、竜巻も止んだ。
竜巻は止み、東間は影乃海賊を解いた。
「もう終わりだ、影も破壊したからな」
影乃狙撃手の正体は、地面に大の字になり仰向けに倒れていた。
「白石蓮、あんたが悪霊だったとはな」
「……ははっ、悪霊……か」
「何がおかしい」
「悪霊は俺なんかじゃない……」
「は?」
「ちょっとだけ、俺の昔話を聞いてくれ……」
それは、今から2年ほど前の話だ。
俺、白石蓮は学校に入ってから、親に勉強を押し付けられて生きてきた。
元々裕福でもなかった家は俺に希望を託していたらしい。
まぁよく言えばそうだが、悪く言えばただ勉強だけしてればいいというただの奴隷同然の扱いだ。
とにかく勉強しか無かった。
友達なんて作るな。
常に成績は一番であれ。
どの教科も100点を取れ。
奉仕活動は絶対にしろ。
とにかく命令ばかりの日々だった。
中3に入る頃には精神はズタボロに引き裂かれていた。
俺はただ図書館にずっと篭って目の前の英文や数式に目を通し、問の答えを書く。
そんな作業のように思えてきた。
何回手首を傷つけたのかは分からない。
それでも尚、親はむしろもっとやれと勉強の押しつけは加速していた。
もう嫌だ。
死にたい。
そんなある日だった。
「隣、いいですか?」
そう声をかけた女がいた。
同じ歳だろうか、制服は俺の通っている中学とは違うが、こんな時間にここにいるということは同じ中三位だろう。
俺はとりあえず首を縦に降り、許可した。
その日は特にそれ以降何もなかった。
翌日、俺はまた同じように図書館の机に向かってただ問いを解いていた。
すると、またあの女が声をかけてきた。
「あっまたやってるんですね」
「……まぁ、受験なので」
「へ〜、あっこれ私が受ける高校の過去問じゃん」
「そうなんですか」
「勤勉なんだね〜私なんて買ってまだ全然手つけてない」
「……そうですか」
この日はそれだけだった。
しかし、日がたっていくうちに、段々と俺と彼女の距離は縮んでいった。
それに気づいたのは、前期の受験が終わった時くらいだろうか。
俺は無論合格したが、彼女はおちていたらしい。
借りた本を返そうと図書館に来ると彼女は後期に向けて勉強していた。
「……あなたは」
「あっ白石……君だよね? いやー私落ちちゃってさ」
「怒られなかったんですか?」
気にも止めていなさそうな彼女に少しだけ嫉妬していた。
失敗の許されない人生だった俺とは真逆の存在だった。
「白石君は受かったの?」
「まぁ」
「へぇ〜んじゃ私、もっと頑張んなきゃ」
こうして、俺は彼女の勉強に付き合ってあげた。
そして後期の受験日がやってきた。
彼女は合格した。
嬉しかった。
ここまで、嬉しかったのはいつぶりだっただろうか、彼女と俺は幸せだった。
入学するまでは。
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