第41話 付き合う
「紫苑、俺と、ええと、付き合おう」
目が覚めた時、俺は開口一番そんなことを隣で寝そべる紫苑に言った。
責任を取る、というか順序が逆なことに戸惑いながらもいつまでも宙ぶらりんではいけないと。
勇気を出してそう告げると、紫苑の目から涙がこぼれた。
「嬉しい……せい君、彼女にしてくれるの?」
「だ、だってこんなことまでして、さすがに責任とらせてほしいというか」
「うん、いいよ。私、せい君の彼女になってあげるから。じゃあ、今日からはもう、彼女として接していいんだよね?」
「も、もちろん。今更、だけど」
今更すぎるというか、ほんとこういうのは順序を守って学生らしく段階を経てと、ずっと思っていたが。
まさか人生初の告白が事後の二日目、しかもベッドの中でピロートークをしながらというそれこそヤリチンみたいな展開になるとはだれが想像できたか。
押し切られた、とも言うべきか。
ただ、負けたのは俺だ。
今更言い訳をするつもりはない。
「じゃあせい君、彼女ってことは毎日手を繋いで登校しても怒らない?」
「ま、まあ。今でもしてるし」
「それじゃ学校でせい君と付き合ってるって公言しても嫌じゃない?」
「あ、ある程度みんなそう思ってるだろうし」
「じゃあじゃあせい君に言い寄る女がいたら怒ってもいい?」
「さ、さすがに彼女いる奴に言い寄ってくる奴は少ないと思うけど」
「ふふっ、よかったあ。私、独占欲がちょっぴり強いから」
ちょっぴり、というのはどうかと思うが。
独占欲が強い彼女の欲望は、やはり関係を持つ前より大きくなっているように感じる。
ただ、それ以上に感じる変化として、表情が穏やかになった。
俺と付き合ったからだろうか。
攻撃的な目は鳴りを潜め、随分と声も仕草も柔らかくなった気がする。
「紫苑、ええと、それじゃこれからよろしく」
「うん、よろしくねせい君。明日は連休最終日だけど、せい君は何したい? 私、ずっとせい君とベッドでゴロゴロしてたいなって思うんだけど」
「ま、まあたまにはいいんじゃないか? ゆっくりするのも大事だし」
「ゆっくり? 夜はこれからだよ」
「……」
足が絡まる。
指が絡まる。
体が、まとわりつく。
絡み合った俺たちはこのままくっついて離れなくなってしまうんじゃないかってほどに、このあとずっとベッドの上で体を重ねる。
無我夢中、というか無。
激しい感情の起伏と、押し寄せる快感とそのあと訪れる虚無感は、俺を無にしていく。
今まで積み上げてきたものが、すべてきれいに崩れ去っていく。
実直に、真面目に、ひたむきに。
そんな精神を勉強にぶつけてきた俺だったけど、今は自分のすべてを紫苑にぶつけている。
そして、何度も何度も絶頂に達して、そのたびに息を切らして互いを見つめていると、紫苑がメンヘラだとかそういうことはどうでもよくなってくる。
不思議と、むしろ俺だけをまっすぐ見ている彼女に安心感を覚える。
そしてムラムラと湧き上がる衝動は定期的に訪れて。
もう、ブレーキが壊れたように俺は紫苑を抱いた。
まじめに生きてきた反動なのか。
それとも男子として、当然のことなのか。
案外、俺もこういうだらしない生活にあこがれていたのかもしれない。
そんなことを思いながら、朝方まで続いた紫苑との行為は俺のエネルギー切れによって終わり。
やがて眠りについた。
◇
「……ん」
「あ、せい君おはよ。もうお昼だよ」
「ん、ああ。もうそんな時間か」
「ぐっすりだったね。あれだけしたらそりゃ眠いよね」
「まだちょっとだるい……でも、さすがに今日は仕事しないと」
「先に起きて、仕事は全部やっておいたよ。せい君はチェックだけしてくれたら大丈夫だから」
「そ、そうか。じゃあ、もう少し寝ようかな」
「うん。夕方起きたらいっぱいしようね」
倦怠感のせいだろうか、起きて何かをする気になれない。
以前なら昼まで寝過ごしたりなんかしたら、飛び起きて勉強していたというのに。
今は何もする気になれない。
それどころか、寝て英気を養って、夜に備えないとって思ってしまう。
あれ、そういえばなんで紫苑と俺、付き合ったんだっけ?
生徒会長になって、紫苑を副会長に任命したのって、可愛いと思ったからだっけ?
よく、わからなくなってきた。
でも、それをよく考える気にもならない。
とりあえず、寝て起きてから考えようと。
また、目を閉じた。
隣に紫苑がいてくれる安心感からか、起きたばかりなのにすぐ眠気が襲ってきて。
そのまま、夢の中へ落ちて行った。
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